Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
62. フェリーで航送される高速列車

- コペンハーゲン~ハンブルグ間の「渡り鳥ライン」 -
The ICE-High Speed Train on Board a Ferry – the “Vogelfluglinie”
今回の取材地: デンマーク ドイツ


Top: An ICE-TD on board a Scandlines ferry between Puttgarden and Rødby.
Bottom: Scandlines against the forest of off-shore wind power generators.

デンマークの首都コペンハーゲンがあるシェランSjælland島はバルト海(ドイツでは東海Ostseeと呼ぶ)西端に浮かび、東(スウェーデン)西(自国ユトランド半島)とは橋で結ばれているが、ドイツの北の都・ハンブルグと結ぶ南西ルートは途中フェーマルン海峡Fehmarnbelt約18kmが未架橋だ。結局トンネルを建設する事となったが、現在はフェリーが45分かけて連絡し、両都市間を直通する急行列車は船で航送される。



緑文字は、北海からバルト海(最東端は第50話の聖ペテルブルグ)にかけて本連載でこれまでに取り
上げた場所とその掲載号(緑文字をクリックすると該当号にジャンプ)。この一帯は面白い乗物が多い。
The blue line indicates the “Vogelfluglinie” (Source: Google Maps)

船に入りきらない長編成の貨物列車や寝台列車は160km遠回りだが架橋済のユトランド半島~フュン島~シェラン島ルート(上に貼付したGoogle Mapsの灰色線)に切り替えられたので、航送を伴うこの近道ルート(同・青線)の輸送量は減り、フェリー内のレールも1本に減らされた。このフェリー経由の近道ルートはドイツ~スカンジナビア間の渡り鳥の飛行ルートと大体一致するので、渡り鳥ラインVogelfluglinieと呼ばれ、フェリーに収まる短編成の直通急行が毎日3~5往復、海を渡る。



Copenhagen Central Station. Top right: Some old decorations
apparently share the same DNA with the Celtic design.

ちょっとした装飾(ケルト模様に似ている)や、コンコース中央の大型木製骨格(北欧の大型建築に良く見られる)が美しいコペンハーゲン中央駅。発着する列車群の大半が連接車(優等列車の台車は普通に2軸だが通勤電車の主力は何と1軸のタルゴ式)で、ドイツ以南の鉄道世界とは雰囲気が異なる。デンマーク国鉄DSBの中・長距離列車の主力の先頭は無粋な切妻構造に幌・バンパー兼用の巨大クッションを付けた異相だ。鈍重そうに見えるが、電車版のIR4は最高時速200キロ、気動車版のIC3でも180キロを出し、日本の在来線のどの特急よりも遥かに速い。本稿で取り上げる渡り鳥ラインは非電化の為全て気動車で運行され、1往復のみドイツ製のICE-TD(列車種別はICE)、他はこのIC3(同・EC)だ。連絡船の乗船・下船を運転室越しに見る為、前面展望席のあるICE-TD南側最前列席を予約した(DBのHPから予約するとシートマップから選べる)



ICE3(上)・ICE-TD(中)共に南独のノイマイスター社がデザインしたが、こうして並べると微妙に異なる。
だが大きなシルエットは、同じく同社が手掛けたJR西日本500系(下)ともども兄弟である事がわかる。
All of the ICE3 (top), ICE-TD (middle) and JR West Series 500 (bottom) trains
are the masterpieces of the Bavarian Neumeister Design. Series 500 is the only
Shinkansen-high speed train in Japan designed by a foreign industrial designer.

上:ドイツ鉄道DBの超高速列車ICEの第3世代、ICE3(オランダ・スペイン・ロシア・中国等にも輸出された、Siemens社製超高速列車の世界的ベストセラー機。第11話参照)はICE1・2の動力集中方式を動力分散(電車)方式に変更した事を強調する為か、運転席背面は一面のガラス仕切りとしてデッキとの間はパノラマラウンジ(以下PL)と称し最高時速330kmの前面展望が楽しめる。車内照明が運転を支障しないよう、ガラスは液晶入りで運転室のボタン操作で白濁化が可能な他、PLの照明は読書灯のみ(右上)としたので、夜間のPLは映画館のように暗く、明るい車内に慣れた日本人客の中には入室を躊躇した人もいると聞く。中:ICE-TDにもPLは一応あるが、運転室との仕切りはハーフミラーになったうえPLにも室内灯(但しドイツ人の好む点光源のハロゲン灯)が設けられたので、ハーフミラーに反射して客室内の様子と前方の景色が合成されたように見え、前面展望の楽しみは半減した(中右)。尚、最新型のICE4(在来線の高速化用)ではPLは廃止されてしまった。



An ICE-TD bound for Hamburg leaves Rødby station and slowly rolls into the ferry.

デンマーク側の最終となるRødby(何と読むのか)駅で小停車後、ゲートが開くのを待って船内に進入する。道路との境界のゲート直前の線路脇に優先標識「◇」がある辺り、道路の交差点みたいだ(左上)。列車はバス・トラック等の大型車と同じ階に入るが、大型車の積込が粗方完了した後に列車の積込という順だ(出る時は同時発車)



This Scandlines-ferry crosses the Fehmarn Belt strait linking Puttgarden (D) and Rødby
(DK), which section is a part of the so-called “Vogelfluglinie” (bird flight line – named
after the bird migration route to/from Scandinavia) between Copenhagen and Hamburg.

船は両端が狭いのでレールも曲がっており、船内構造物も多く複雑な印象を受ける。列車は前方ハッチのぎりぎりまで接近して停車する。欧州には行き止まり式の頭端駅は多いが、ここまでの寸止め停車は初めて見た。



Small staircases are pre-installed on board the ferry to enable the train passengers to
get off/in easily. During the crossing, all passengers are requested to leave the train.

左上:客室内から船内を見る。勿論ホームは無いので、ドアの位置に金属製の踏台が予め設置されている。左下はドア閉時、右下はドアを開けた状態の足元。右上は乗降の様子だ。航海中、乗客は列車内に留まる事はできず全員上階に移動するよう求められる。盗難やテロの防止の見地から当然の措置だろう。



右下:車体傾斜装置(後述)付の台車が車体からはみ出し、いかつい印象を与える。
Scandlines-ferry vessels are so-called “double enders” that do not need to turn
the direction at the port. “S” stands for South hatch and “N” for North hatch.

上:救命浮輪が、この列車が海上にある事を物語っている。Scandlinesのフェリーは両端に操船室・スクリュー・舵がある両頭船なので、東京湾フェリーのように港で転回する必要が無い。下:ハッチ中央にある「S」「N」はそれぞれ南北を示す。例えば、ドイツ方面行の列車の先頭車の客は「S」のハッチ側に戻れば良いという訳だ。4両編成のICE-TD(編成長106.7m)は前方ハッチぎりぎりに停車するが、後方は約10m余る。後述のデンマーク車IC3なら3両基本編成の重連で117.6mとなり、船室の有効長(約120m)にぴたりと収まる。



車体下部にはドイツ鉄道DBがデンマーク国鉄DSBのサポートをしている事、最高許容速度は200km
で独・丁両国での走行許可がある事、特別の合意の下での運行である事、が細々と表示されている。
ICE-TD is a Siemens-manufactured diesel train with active tilting system commissioned
in 2001 with a top speed of 200km/h or 125mph. All train sets of ICE-TD had been out
of service for a while mainly due to unstable tilting technology, but it resumed operation
on the “Vogelfluglinie” from December 2007. Northern Germany is flat with less curves,
and the diesel tax in Denmark is reportedly less than in environment-conscious Germany.

このICEはドイツ製で一見電車のようだが実はICE-TD型という気動車(ディーゼルカー)だ。Dはディーゼル、TはTilt(傾斜)の頭文字で、急カーブを高速で抜ける為の車体傾斜機能付だ。ICE1~ICE3が専ら高速新線を疾走する為に開発されたのに対して、ICE-TDは曲線の多い非電化ローカル線の高速運転の為に開発された。従って最高時速もICE3の330km/hに対して200km/hと遅いが、日本の車体傾斜装置付気動車(JR北海道キハ281/283、JR四国2000系)がせいぜい最高130km/hなのに比べると格段に速い。ディーゼル発電機で自家発電した電気で交流モーターを駆動するが、防音性能は高く車内で発電機の音はほぼ聞こえない。車体傾斜用の強制振子装置の故障が多く全編成が運用離脱した時期もあったが、デンマーク国鉄DSBに貸し出す形で復活した。北ドイツは平坦で曲線も少なく、問題の車体傾斜装置は固定されている印象を受けた。



右上:階段室の踏切マーク側のドアを開けると、ぎょっとする近距離に列車が聳え立っている。車体
下部に車両の所有者、ドイツ鉄道遠距離交通株式会社DB Fernverkehr AGの名が記されている。
Top left: 1000V-power is supplied to the train from the ferry during the crossing.

左上:先頭車に給油をしているのかと思ったら、差込口に「1000V」とあったので給電ケーブルだった。船内で排ガスを噴出しながら発電機をぶん回す訳にはいかないので船のバッテリーからお裾分けして貰っているのだろう。客室への移動はエレベーター(下)か階段(右上)だ。鉄道と大型車はこの3階に収容され、5階は自家用車用、6階は店舗・レストラン・案内所、7階がレストランとデッキ階だ。日本や英国のような島国では文字解説が多いが、言語の異なる多くの国がひしめく大陸欧州ではこのようにアイコンのみの標識が多い。階段室のドアには5階は車、3階は大型車側はバス、鉄道側は踏切のアイコンがあり、一目でわかる。



Bottom: Similar to the Channel Link trains crossing beneath
the Dover, there is a special lounge for truck drivers.

上・中:5階の乗用車階後方はハッチで密閉されず、ドイツ鉄道の踏切と同じ規格と思われる遮断機があるのみだ。下:レストランではTrucker Loungeがあり、長距離トラック運転手専用の落ち着いたコーナーがあった。長距離トラック運転手が大事にされるのも欧州の特色で、英仏海峡トンネルChannel Link第29話参照)の巨大自動車運搬列車にもトラッカー専用の客車が連結されている。



上:ドイツのような経済大国が脱原発を実行する為には、ここまでしなければならないのだろう。
The sun deck of the ferry offers a refreshing break for the long distance train passengers.

総所要時間は約4時間50分もあるので、途中のフェリー区間は空気の淀んだ狭い車内から一転して広い大海原の真中で潮風に身を晒す絶好の気分転換になる。飛行機ならひょいと行ける距離をわざわざ5時間近くかけて陸路で行くのは、むしろこれが楽しみという乗客も多いだろう。Scandlinesの連絡船は約30分毎に運行されるので、45分の航海中には逆方向の僚船と必ずすれ違う。北ドイツ名物の洋上風力発電はこの一帯では航路南側にあり船は右側通行なので、海上に林立する風車群を背景にしたフェリーの撮影をしたければ、午後にドイツ方面行のフェリーに乗ってデッキ左舷で待っていると、順光で狙えるチャンスが1度だけ訪れる(本稿冒頭の写真)



Ready to go on land again – The ICE-TD resumes its journey using its own engine
when the hatch of the vessel, the bar of the ramp and the gate of DB are all open.

ドイツ側に到着し、ゲートが開く。筆者の世代にはサンダーバードのBGMが似合うシーンだ。空には海鳥が舞い、渡り鳥ラインにサンダーバードThunderbirds(雷鳥)と、鳥に縁のある線だ。船のハッチ・ランプウェイのバー・DBのゲートが全て開いたら、上陸して自力走行再開だ。信号待ちのサイクリスト達が興味深そうにこちらを見ている。





ICE-TD rolls out of the ferry and runs slowly on the ferry slip (top) and
then passes by the gate beyond which is a normal railway track of DB.
The gate is closed immediately after it allowed the train to enter.

上:船と陸地を結ぶランプウェイ(傾斜路)を行く。ランプウェイが長いのは急坂(船の積載量次第では陸地面との高低差がかなり出てくる)が苦手な鉄道車両を考慮した為だろう。頭上の高架は自家用車用のアプローチ橋だ。ゲートを越える(中)と通常の鉄道モードに戻り(左下)、すぐにゲートが閉まる。一見のどかな鄙の港だが、実に効率良くてきぱきと物事が進む。



The German-Danish border exists here in Puttgarden. Since both countries
are signatories of the Schengen Agreement, no border control is conducted.

左上:Puttgarden駅に着いて後方を振り返ると、先程まで乗っていた船が城のように聳えて旗を吹き流させている。陸上にも発電用の風車が林立し、再エネ大国ドイツに来た事を実感させる。雑草が生い茂るがらんと広大なヤードが、ユトランド半島~フュン島~シェラン島が橋で結ばれるまでは、このルートが独丁間を結ぶ幹線だった歴史を今に伝える。



左上:左下の標識が独丁連絡鉄道国境。背後の船の破損が気になる。
Bottom right: Local diesel train between Lübeck and
Puttgarden. All trains are well connected with the ferries.

左上:渡り鳥ラインにおける独・丁国境駅はドイツ側のPuttgardenとする取極になっているので、航送中はデンマーク領内という事になる(従って本稿冒頭の「主な取材地」はデンマークとした)。両国共にシェンゲン協定加盟国なので、国境検査は原則として行われない。デンマークは欧州共通通貨ユーロには参加していないが、船内では勿論ユーロ・クローネ双方が使える。下:デンマークからフェリーが着くのとほぼ同時にリューベック方面からの普通列車も到着する。徒歩でフェリーに乗り継ぐ客の移動時間を考えたダイヤが組まれており、今度は下船客を拾い終わるとリューベックに戻っていく。



Most of the direct link between Copenhagen and Hamburg are using IC3 of DSB.
IC3 is a Danish diesel train using Jacobs bogies. One trainset consists of 3
coaches and a train with two trainsets just fits the inner length of the ferry.

Puttgarden止まりの各停を追いかけるようにデンマークに渡るECユーロシティが到着し(左上)短い停車の後、徐行して船に乗り込んでいく。使用車両はDSBのIC3だ。ECという列車種別は1987年の列車種別再編で改名された国際急行だが、高速列車専用種別であるTGVやICE等の国境を越えた運用が増えると、ECは「高速列車以外の国際急行」を意味するようになった。その後在来線用の機関車も220キロ出せるものが増え、反面ICEもこのTD型のように200キロしか出ないものも出現し、境界は曖昧になりつつある(現にこの区間ではECもICEも所要時間は変わらない)。ECの大半は機関車で牽引又は推進される客車列車で、IC3のような気動車は珍しい。



Scandlines-gates for passenger cars.

ホームの隣は車用のゲートだ。Scandlines社の敷地入口には、自己責任で走れとか道交法の適用ありとか、ドイツらしい表示がなされている(左下)。道路標識脇の「東ホルシュタイン郡」と彫り込んだ石がいい味を出している。



Rubber diaphragms instantly seal two cab cars together when multiple IC3 train
sets are coupled. The face looks odd, but with 180km/h the train is not slow.

雨の中を下船してきたECに乗り込んでハンブルグへの移動を再開した。シートは一昔前のふかふかした快適なものだ。ディーゼル発電機で電気モーターを回すICE-TDのような電気式気動車と異なり、IC3はディーゼルエンジンで発生した駆動力を変速機を介してそのまま機械的に車軸に伝える機械式気動車だ。変速を伴う加速中のエンジン音はバスに乗っているようだ。IC3の独特の顔はドイツの鉄道誌ではゴム鼻Gumminaseと呼ばれ、他の先頭車と連結した瞬間に幌も完成し運転台を畳んで通り抜けできる(左下)仕組だ。お世辞にもイケメンとは言えないが、増結解結に便利なうえ連接構造でカーブに強い為か、DSBではこのスタイルの派生形が多数ある(2両固定編成のIC2、電車版のIR4等)他、イスラエル・スウェーデン・スペインにも輸出された。



ハンブルグは筆者第二の故郷で、中央駅の広壮な駅舎もフィリップスの広告も昔のままだ。子供の頃の同駅
の主役は濃緑の重厚な客車群だったが、今は軽快な白+赤の日の丸カラーに変わり、イメージが一変した。
The IC3 with its unique design distinguishes itself among DB trains at the Hamburg Central Station.

下:終着ハンブルグ中央駅でドイツ鉄道DBのIR(快速/左)・初代ICE(中)・IC(右)の中で異彩を放つデンマークの「ゴム鼻」IC3。2007年12月に始まったDBからDSBへのICE-TDの貸出は報道によると契約期間13年というので、更新されなければICE-TDのデンマーク乗入はあと3年で終わる。更にフェーマルン・ベルトを海底トンネルで結ぶ工事が始まった(現状2024年頃完成予定)ので、IC3共々、世界でここだけと思われる高速列車の航送の終焉もそう遠い将来ではなさそうだ。

*       *       *

欧州の鉄道記事から出発した本連載は取り上げる対象が欧州以外に広がり「欧州鉄道百景」から「準急ユーラシア」と一度改題したが、鉄道以外の乗物も取り上げつつあるので、連載16年目にして2度目の改題を行い「世界乗物四季報」と題する事にした。今後ともご訪問戴ければ幸である。

前号は気球、今号は海面と続いたので、次号の世界乗物四季報は海中からお届けする。



Next stop of the Trans Eurasian Express: Honolulu (USA)
Expected Arrival: November 2017

(2017年8月 / August 2017)
 
 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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