Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
10.北の都の第三軌条式森林浴地下鉄

- 森の中を行くスプリンクラー付ハイテク電車 -
今回の取材地: ドイツ ベルギー

ドイツでは地下鉄の事を U-Bahn (地下鉄道 Untergrundbahn の略) というが内容は様々だ。私の見るところ、完全立体交差式、つまりトンネルと高架のみから構成される地下鉄を持つ事のできる都市の規模はざっくり人口百万を超えている事が必要条件のようだ。東京・ニューヨーク・ロンドン・モスクワ・パリ等の巨大都市は言うに及ばず、神戸・京都・仙台も百万都市だ。ドイツでも完全立体交差式の地下鉄があるのは今回取り上げるハンブルグの他、ベルリンやミュンヒェンのような百万都市に限られるようだ。

だが地方分権型の連邦国家であるドイツでは百万都市がそう多くない。人口70万弱のフランクフルト・アム・マイン市では地下鉄と称してはいても中心部を出ると道路との平面交差が随所に見られるが、それでも路面電車に毛の生えたような旧型車はU-Bahn区間では淘汰されつつある。人口60万を切るデュッセルドルフにも一応U-Bahnと称するものはあるが、地下区間も短いうえ車両も路面電車を数珠繋ぎにしたものに過ぎず、流石に「U」マークだけでは具合が悪いと思ったか、「U」マークに小さく「Stadtbahn 都市電車」と付記されている (そういえば日本でも路面電車は地下鉄が普及するまでは都市特有の電車だったので「市電」と呼ばれていた)。ならば正面から Stadtbahn と称すれば良さそうなものだが、それでは通称は S-Bahn となってしまいドイツ鉄道 DB の郊外列車 Schnellbahn 、通称 S-Bahn と紛らわしいのでこういう一見奇妙な混合表記になっているのだろう。



ブラッセルのプレ・メトロ

尚、隣国ベルギーの首都ブラッセルも百万都市で完全立体交差の地下鉄 Metro を有するが、路面電車網も健在で、中心部のみ地下に潜る「地下鉄の前段階」という発想からこちらはプレ・メトロ方式と呼ばれる。上の写真はブラッセル都心部の De Brouckere 駅の例だが、左の写真のようにホームは将来フル規格の地下鉄となった場合に備えて長さもホーム高も通常の電車用の本格的なサイズで建築されているが、路面電車のみが乗り入れる現段階では中央部分の路面電車の有効長の部分だけホームが低くなっている。右の写真は電車到着時の様子で、大きな駅に路面電車がちょこんと停車していると規格の差を実感できる。デュッセルドルフの Stadtbahn は市中心部は地下の専用線を走るがホームも全て路面電車規格で、ブラッセルのプレ・メトロ区間と比べると、こちらはこれで打ち止めという趣だ。

前置きが冗長に失したが、本論のハンブルグである。幼少時彼地の現地校に通っていたので北欧の香り漂うこの町には少々思い入れがある。ハンブルグの地下鉄の運営主体はハンブルグ高架鉄道株式会社 Hamburger Hochbahn AG (HHA) という。地下鉄なのに社名に「高架」が入っているのは、都心区間の一部並びに路線網の多くを占める郊外区間が高架だからだろう。ハンブルグの郊外は美しい森林の中に住宅地が点在し、車窓が美しい。手前味噌になるが、私が昔住んでいた辺りの1号線 Volksdorf Meiendorfer Weg の両駅間はとりわけ森が深く、木漏れ日の中を軽やかに走るのは爽快だ。



分岐駅Volksdorfに停車中のDT4

 

都心区間でも緑が多い。北ドイツ独特の赤煉瓦作りの駅舎もまだ一部残っており、いい味を出している。そして何よりもハンブルグの地下鉄の情景を特徴付けているのは架線が無い事だろう。欧州の都会と日韓等東アジアの都会との景観を大きく異ならしめている要因の一つは道の両側に並木がゆったり枝を張っているか電線が這っているかという違いだ。HHAでは地下区間のトンネル断面を小さくする為全て第三軌条方式としており、架線も電柱も無い。その副次効果で高架区間も軌道上には何も無く、一般の電線の地中化と相まって都市景観を視覚的にすっきりさせるのに貢献している。私は神戸の阪神電鉄沿線で生まれたが、大震災前の阪神は遠目にも「あそこに阪神の線路がある」とわかる程架線柱が巨大だったので、郊外区間で上が何も無い爽快さというのは私には一寸したカルチャーショックだった (同じく第三軌条式の銀座線 01系や丸の内線 02系の車輌が森の中を走っている姿をご想像戴きたい)。尚、第三軌条式は感電の危険が大きいので道路との平面交差には適さないが、日本では銀座線上野検車区付近、欧州では モンブラン急行* (いずれも第32話参照) 等で実例がある。

前述のようにハンブルグの地下鉄の直接の運営主体はHHAだが、ドイツ鉄道 DB のみならず AKN 等の私鉄も含めて同市及びその近郊の鉄道・バスはハンブルグ交通連合有限会社 Hamburger Verkehrsverbund GmbH によって統一した運用がなされている。HP*によると、社員 (出資者) の出資比率は輸送実績に応じており、ハンブルグ自由市 (州と同等の扱いを受けている) の8割強を筆頭に、郡 Kreis (州 Land と市町村 Gemeinde との間の行政単位) や隣接するシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州等、地方政府や地方自治体が出資者となっている。


森の中は昼間でも暗く、森林区間走行中は日中でも車内灯が自動点灯する。
森を抜けると再び自動消灯する辺りの節約精神の旺盛さは見習いたい。

日本の場合、例えば乗客が甲線A駅で乗車し隣のB駅で乙線に乗り換え更に一駅乗ってC駅で下車した場合、甲線と乙線が同じ会社なら初乗運賃で行けるところが別会社なら合算されてしまう。鉄道会社からすればどの会社の線を使うかは重要な問題だが、利用者の預かり知らぬ事情で料金が倍程も違ってくる。そもそも航空機等との競争がある都市間輸送と異なり、大都市近郊の公共輸送は競争原理が働きにくい (だからこそ免許制になっている)。そこで鉄道の公共財としての性格を重視して、利用者の視点に立った運用を可能にする仕組がこの交通連合制度で、ハンブルグに限らず、例えばフランクフルト圏ではラインガウ地方の一部まで含めたライン・マイン交通連合有限会社 Rhein-Main Verkehrsverbund GmbH (RMV) 等、ドイツでは一般的だ。RMV 同様、HVV でもどの鉄道会社を利用しようとも、同一ゾーン内は同一運賃で利用者本位のルールが採用されている。また、標識類も統一されておりわかり易い。



文字通り森閑とした駅(左)と、高木の切り通しの底を進む様子(右)はWaldbahn (森の鉄道)の愛称を
地で行く。勿論ワンマン運転で、運転は右手の小さなレバー1本で行われる。運転席右側のモニターには、
E
メールによる文字情報が頻繁に現れる。運転席左側の様子は次の写真参考。実に機能的だ。

現在の主力は DT4 という4両固定編成の連接電車で、直線基調の赤白灰のトリコロール塗色はハンブルグの地下鉄のイメージを一新するものだった。車内は2+2のボックスシート、大型液晶画面による車内案内、駅のカメラと無線で連動した運転室のマルチモニターシステム等最新の設備を有する。世界のハイテク電車の趨勢となった VVVF (可変電圧可変周波数) システムは角目から丸目に変わった後期型から採用された。



左:DT4型の運転席左側のモニターは停車駅のホーム両端からの映像を無線傍受して表示する。
このアイデアにより列車の長さにかかわらず運転席にいながら安全確認できる。右:防犯カメラ
(①)は今日では珍しくなくなったが、スプリンクラー(②)に高い安全志向が観て取れる

日本の鉄道用語でいう「新性能化」以降の形式を簡単に紹介すると、まず DT1 はカルダン駆動最初の形式だが、車内は重厚な木目で、昔これが来た時は子供心にも特別な電車に乗るようで心躍ったものだ。1958年製の1編成が団体車両 Gesellschaftswagen 用に改造のうえ動態保存され、ノスタルジー列車 Hanseat (ハンゼアートと読む) 号として不定期運行される他、貸切運転のサービスもある。尚この改造はボックスシート部分へのテーブル取付にとどまらず、トイレ・ビュッフェ更にはダンスコーナーの設置も含む大規模なもので、1992年の改造当時は世界唯一の団体専用地下鉄車両だった由。これも郊外の高架区間の景色が美しいハンブルグならではであり、今日でも私は他にこのようなサロンカー地下鉄車両を知らない。運転日・利用方法は HHAHP* に掲載されている。



DT3型(DT2型も)のドアは外付けレール(矢印)上を単純にスライドする外吊り式だ。
日本では旧国鉄キハ35やJR東E993系試作車等で僅かに見られるに過ぎない。車体
外観の凸凹を嫌う欧州では、今日では同じ外吊り式でも閉戸時に車体表面が面一に
なるプラグ式ドアが主流になっており、DT4もICEも大半のトラムもその方式だ。

次いで全金属の DT2 がステンレス車体・連接構造で60年代独特の丸味を帯びたデザインで登場したが、椅子は硬化プラスティック製のコチコチのとんでもない代物で、老人客が立っていると仏頂面の無愛想な人でも弾けるように席を譲った記憶がある。後年、DT3 と同様のクッション付のシートに交換された。

DT2 を性能面・接客設備面で進化させたのが DT3 で、シートもクッション付となった上、1+2 のゆったりとしたものとなった。後にハンブルグの市章をあしらった HHA マークを正面中央に掲げた顔は気品すら漂っていたが、DT4 に準じたモニター類設置の為美しい顔は丸ごと切り取られ、似ても似つかぬDT4もどきのチープな顔に整形され、更に座席定員を増やす為シート配置も 2+2 になってしまった。初期のものは車齢40年になんなんとする DT3 は、2012年から投入予定の DT5* (初めて車両間の通り抜けが可能になる) により、遂に淘汰される事となった。尚、本稿の写真は全て DT4DT3 改である。



右上:1階デッキの車掌コーナー。ランプのような小道具も含め、
アール・ヌーヴォー(ドイツではユーゲント様式Jugendstil という)的
装飾が美しい。階段はハシゴのように急で高齢者には厳しかったろう。

かつてWohldorfからVolksdorfを経てRahlstedtで国鉄線(当時)に接続していた森林路面電車があった。機能的には森の中の村々を国鉄線に繋ぐいわゆる培養線だったが、高架電車の都心延伸で存在意義を失い、廃止された。当時の車両が長くVolksdorf駅裏に保存されていたが、現在はアウミューレ機関庫 Lokschuppen Aumühleというハンブルグ東方郊外の小さな鉄道博物館で屋内展示されている。1階のダブルルーフの天窓がバルコン形式の二階席の蹴込にあるという面白い構造だ。二階席に乗って深い森の中を走るのは爽快だったろう。



都心の高架区間には、運行に必然性の無い石の装飾が時々見られ、繁栄した町の
余裕のようなものを感じる。 写真は遊び心が楽しいKellinghusenstraßeの石のゲー
トをくぐるDT3改。 運転室更新車だが、計器盤の凸凹に更新後の時の流れを感じる。

鉄道好きの方の為に Miniatur Wunderland を簡単にご紹介する。市南部の港湾地区の Speicherstadt といわれる倉庫街の一角を改装して作られた有料の大ジオラマで、模型のみならず情景も工芸品の域に達しており、さすがは鉄道模型の本場ドイツと唸らせる本格的なものだ。一定人数しか入場させない為、週末訪れた時は長蛇の行列だった。HP* に日本の新幹線100系と思しき絵が出てくる割には、情景・車輌は欧州とアメリカのものに限られている (もっとも日本の鉄道コーナーが仮にあったとしてもアジアへの知識不足から万里の長城やベトナムの牛耕田を背景にのぞみが走っている滑稽な情景になっていた可能性も十分あるので、間違いを指摘する手間が省けて良かったと納得する事にした)

ここでは模型販売コーナーもあるがこちらは期待していくと失望するかもしれない。交通機関を文化遺産として評価する姿勢は欧州の方が明らかに日本より強く、結構最近の乗合バスや市電も動態保存されており「そういえば子供の頃こんなのが走ってたなあ」と竹馬の友に思わず遭遇したような気にさせてくれる。ハンブルグも例外ではなく60年代のずんぐりデザインのバスや路面電車が保存されていて愛好家等によって公開運転されている。尚、ハンブルグの旧式路面電車はミラノのヴェントット、旧神戸→広島市電の528等と共にサンフランシスコでも保存されている (第33話参照)



ザンクト・ゲオルグという船名は古代ローマ末期の聖人に由来する男性名だが、小窓の連続と細身の船体の美しさは
女性的で、アルスター湖の女王と形容するに値する。尖った鼻先には自由ハンザ都市ハンブルグの赤地に白い城塞の
旗が誇らしくはためく。写真右の金属は操舵室から指示を船倉の蒸気機関士に伝える伝声管で、これだけでも時代物だ。

脱線ついでに、この北の都の鉄道以外の面白乗物も紹介する。一つはアルスター湖の蒸気船 St. Georg* だ。ディーゼル駆動の一般の観光船でも十分楽しいが、ドイツ最古の現役蒸気船 St. Georg 号の蒸気機関独特の音と香りは水上を行く SL の趣だ。

もう一つは Paternoster パーターノスター (数珠) といわれるエレベーターで、数珠状に繋がったドアの無い箱が無限軌道を常時回転し続け、利用者は随時飛び乗り降りたい階で飛び降りるという、敏捷さに自信の無い方には不向きのユニークな乗り物だ。私の知る限り、ハンブルグでは内アルスター湖西岸地区に二基残っている他、ベルリンの連邦外務省ビル内に動態保存基がある。

 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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