Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
15. ラインの黄金Ⅰ

- 神話編 -
今回の取材地: ドイツ スウェーデン フィンランド
 1928年、スイスからライン川に沿ってドイツ屈指の景勝ルートを辿りルール工業地帯を経てオランダに至るルートにFD (Fern Durchgangszug,7号参照)「ラインの黄金 Rheingold」号が運行を開始した。これはオランダ側の終点Hoek van Holland で英国連絡船と接続し、空路の未発達な時代には独英連絡列車としての重要な機能も有していた。初代 Rheingold には紫とベージュの特別塗色の客車があてがわれ、以降戦時中の運行中断はあったものの、日本で言えば東海道昼行特別急行時代の「つばめ」や「はと」に相当するドイツの看板列車として、その時々の最高水準の車両が投入されていった。列車の変遷や見所は後編でご紹介するが、本号ではまずその列車名の奥深い由来について見てみよう。
 話は日本で言えば明治維新前後の南独に遡る。かつてドイツには帝国の栄華を体現する見事な劇場が数多く存在した。中にはドレスデンのそれのように城郭のように豪壮な、もし今日まで残っていればユネスコの世界遺産登録間違い無しと思われるスーパー文化遺産もあったが、二度の敗戦でその大半は惜しくも灰燼に帰した。だがバイロイト Bayreuth の二劇場、即ち辺境伯歌劇場 Markgräfliches Opernhaus と祝祭劇場 Festspielhaus は、地方都市にあった事が幸して破壊を免れた。前者は本題と無関係なのだが、ロココ調ファサードで飾られた木造の内部は美しくこちらの方が遥かに絵になるので、写真は私の好みで前者を挿入する。
 祝祭劇場の方の躯体は倉庫のように地味だが、オペラファンにはこちらの方が知られているだろう。この祝祭劇場ではその設計指導も担当したヴァークナー Richard Wagner の音楽祭が毎年夏に開かれ、その目玉は彼が四半世紀余を費やして作った「ニーベルンゲンの指輪 Der Ring des Nibelungen」(以下「指輪」)だ。「指輪」は中世ドイツを代表する英雄譚叙事詩「ニーベルンゲンの歌 Das Nibelungenlied」(以下「歌」)を主題材にしたものだが、「歌」は更にゲルマン民族がまだ北方にあった頃のエッダやヴォルスンガ・サガ等の北欧神話が変容したものとされる。
 古ゲルマン部族には紙に「書く」習慣が長く存在しなかった。スカンジナビアの森の中に今も痕跡を残すルーン文字も「刻む」使われ方をした為、物語のような大量の情報を保存するには適さない。北欧に紙に記録する文字を伝えたのはキリスト教の宣教師でしかも伝来と時を移さず改宗が強力に進められた為、オーディン最高神以下異教の神々の物語である北欧神話は、断片的なものを除いては文書に記録される機会になかなか恵まれなかった。エッダが比較的体系的に編纂されたのは鎌倉時代になってからで、しかも僻陬にあってキリスト化が遅れかつノルウェー王に強要されて渋々の改宗だったアイスランドにおいてだったのは興味深い。溶岩台地が続く島北部には、旧宗教の祭祀物を投げ捨てたとされる「異教の神々の滝」の瀑布が、今日も無人の荒野の静寂の中に轟く。
 北欧神話はギリシャ神話や日本神話と似て人間的なキャラの八百万の神々が登場してそれぞれに人間界とかかわりを持つ。ただ、北欧神話は厳しい自然条件を反映してか運命論的で、救いが無く、また荒ぶる神々の戦いは凄惨で(斃した敵の心臓を焼いて食ったり汁を舐めたり血を飲むとかすごい場面もでてくる)、遂には皆疲弊し、神々はたそがれてしまう。
 「歌」は、現在のドイツ辺りまで南下したゲルマン民族が世代から世代に語り継いで きた民族古来のエッダ伝説にキリスト教的価値観が一部混ざり込んだものと言われる が、神話的要素は薄まり、むしろ戦記物風に変容されている。13世紀初頭という交通 不便な中世にかかわらず地理的な広がりが面白い。「歌」前半は複数の恋愛を柱に話 が進む。

バルトの辺りで興ったブルクント族が南下し定住していたライン中流の Worms (英語読みすると何やら蠢くようだが、ヴォムスと読む)や、その近辺のオーデンの森*Odenwald 辺りを中心に物語が展開する。Oden が北欧神話の最高神 Odin と発音が異様 に似ているので、この森の名称はひょっとして北欧神話に由来するのかなと気になっ て少しGoogleで調べてみたら、案の定議論*があるようだ。一方、Wormsの町 は後年 ルター Martin Luther の宗教改革でも重要な役割を演じるが、ルターが皇帝と対峙 した場所に残る碑文には「…かつてニーベルンゲンの王城があったこの地で…」の文 字が見える。
 ブルクント王・グンターの妹クリムヒルトの美貌を聞いたオランダの王子 Siegfried ズィークフリート(名前を直訳して以下「勝慶」君と呼ぶ)がグンター王を訪ねるが、そのグンターは遥かアイスランドの美貌の誉れ高いブリュンヒルト女王を狙っていた。だが彼女は武勇にも秀で、自分より強い男しか夫としないという。勝慶のブルクント滞在中に突然宣戦布告して攻め込んできたデンマーク・ザクセン連合軍を少人数で撃退した勝慶の武勇に驚いたグンターは、自分がブリュンヒルトと結婚できるよう力を貸してくれれば妹をやると勝慶に申し込み、勝慶はこれを承諾した。勝慶はハリー・ポッターの透明マントのような不可視となる蓑を用い俄か透明人間となって非力なグンターに各局面で加勢し(詳細を書くのは憚る)、男達の密約は履行され二組の夫婦が誕生する。
 しかし後日クリムヒルトがこの間の経緯を浅慮にも公の場で暴露し、おまけに勝慶がどさくさに紛れてブリュンヒルトの閨から盗んで自分にプレゼントしてくれた黄金の指輪まで証拠に見せてしまう。面目を失ったグンター王夫妻の怒りは勝慶に向けられ、その意を受けた謀将ハーゲンはクリムヒルトを騙して勝慶の秘密の弱点を聞き出した。それはこういうものだった。かつて勝慶がニーベルンゲン族の黄金を守る竜を退治した時、彼は全身に竜の返り血を浴びた。竜の血には、皮膚に浴びせると槍をも通さなくなる魔力があり勝慶は無敵となるが、その時偶々舞い落ちてきた菩提樹の枯葉が勝慶の体に貼り付いたのに気付かず、そこだけはシールド化されなかった、というものだ。クリムヒルトはお人好しにも鎧の該当箇所に目印を付けて留意を促すが、ハーゲンは勝慶を油断させたうえでそこに容赦なくピンポイント攻撃をかけた。不意を衝か れ、人の柔肌のまま残った箇所を槍で刺し貫かれた勝慶は非業の死を遂げる。

ギリシャ神話にも似た逸話がある。英雄アキレスは嬰児の頃母に冥界の川に全身を浸され不死身となったが、その時母が掴んでいた踵の部分だけシールド化されず、トロイ戦争で臆病な(大)トラブルメーカーのパリスにそこを射抜かれて殺された。独・北欧神話の狡猾なハーゲン、ギリシャ神話の怯懦なパリスと、英雄の急所を衝いて殺す者が共に卑しく描かれているのは、戦士はかくあるべからずとの共通の美意識を暗示して興味深い。

Bopparder Hammが津波のように迫る
 「その女、凶暴につき・・。」「「歌」前半では世間に疎い若奥様に過ぎなかったクリムヒルトは、「歌」の後半では黄金の祟りか一転して復讐の鬼と化す。ブルクントの仮想敵のフン族(ハンガリー)のエッツェル王と再婚し、後にフン族の力を背景に祖国ブルクントと戦争を惹き起し、陰謀を用いて屠殺とも形容できるような酸鼻極める大殺戮を敢行する。ハーゲンは災いの源の一つだった黄金の指輪を再びライン川に沈める。クリムヒルトが捕虜となって抵抗できない兄グンターまで屠ったのを見た東ゴート族の勇士ヒルデブラントは、彼女の騎士道から余りに逸脱した残虐さに遂にぶちキレてしまい、同盟国の王妃であるクリムヒルトを串刺しにして、物語は終わる。屍の山を築いただけで終わってしまう物語は暗く、重く、全く救いというものが無い。
 神話的味付けは残るものの戦記物的色彩の濃い「歌」と比べ、以下に要約する Wagner の「指輪」はやや先祖帰りしてゲルマン部族が北欧にあった頃の神話的要素が多く復活している。ラインの川底には、所有者は愛を失う代わりに社会を支配する力を得るという黄金が沈んでおり川の乙女が鎮護していたが、これを奪ったアルベルヒは黄金から指輪を作りその魔力で地底に住むニベルンゲン族を支配してしまう。同時期、最高神ヴォータン(オーディン)は神々の居城となすべく壮大なヴァルハラ城を築城中だったが、予算が足りず、作業を請け負った巨人族への報酬として、妻フリッカの妹を差し出す約定だった。結婚神でもあるフリッカは妹を巨人族にくれてやる事を拒否した為、契約違反に怒った巨人族は代わりに巨額の黄金を要求した。窮したヴォータンはアルベルヒを脅してラインの黄金と指輪を取り上げ、巨人族に渡す。これを恨んだアルベルヒが黄金に呪いをかけた為、巨人族は黄金を巡って殺し合いを始める<以上「序夜・ラインの黄金 Das Rheingold」>。

ローレライ・トンネルに突入
 最高神ヴォータンが人間に生ませた双子の兄妹の妹は略奪婚により敵・フンディングの妻となっていたが、兄と再会し駆け落ちする。怒ったフンディングは兄に決闘を申し込む。結婚神フリッカは兄の行動を許さず、兄に死を求め、ヴォータンは渋々この措置を承諾した。ブリュンヒルデ(ここではアイスランド女王ではなく、戦乙女ヴァルキューレの長姉)は薄幸の兄妹に同情して兄を守ろうとするが兄は神の加護が無かったので決闘に敗れて死ぬ。ブリュンヒルデはせめてもと身重の妹の方だけは逃がした為父ヴォータンの怒りを買い、荒涼たる岩山の上で炎の輪の中で眠りにつかされる。

少し脱線する。映画「地獄の黙示録」で米軍ヘリの大編隊が「ヴァルキューレの騎行*」を大音量で流しながら北ベトナム軍に突撃するシーンがあった。そういえば日本の JAF に相当する英国のロードサービス会社の一つ、Royal Automobile Club の関連会社 RAC Foundation 1994年4月14日付ニュースリリース* は、車を運転していて最も事故を起こし易い危険な音楽として、この「ヴァルキューレの騎行」を Music to avoid の筆頭に挙げていた。確かにこの音楽には男の闘争本能をかきたてる劇薬が入っており、ついアクセルを踏み過ぎそうだ。同様の劇薬は、エイリアン2で主人公リプリーがエイリアンの大群に襲われ虎口にある海兵隊員を救出し、装甲車で怪物達に体当たりし蹴散らしながらエイリアンのコロニーを脱出するシーンの勇壮な音楽にもたっぷり入っている。高速道路でこれをかけていると、顔も戦闘モードのリプリーになってしまい時速200キロ以下で走る事はできなかった(勿論ドイツでの話だ)。更にコッポラ監督がうまいなと思ったのは、戦乙女達が騎乗して大空を翔る天馬と、現代の天馬・武装ヘリとをひっかけたと思われる点だ。戦乙女が最高神(ヴォータン)の子なら米軍ヘリは世界最強国の申し子という対比か。ついでに言うと「文明が野蛮を征伐する」というニュアンスもちらっと感じられた <以上「第一夜・ヴァルキューレ Die Walküre」>。
 兄妹の不義の子・勝慶は勇者に成長し、出生の秘密を知ると宝剣と共に冒険に出る。黄金の独占欲にかられたある神は竜となって黄金を死守しようとするが、その横取りを企む育ての親に唆された勝慶は竜を退治し、乗せられたと知った勝慶は怒って育ての親をも殺し、呪いのかかった黄金の指輪をゲットしてしまう。竜の返り血を浴びるが枯葉の部分だけはシールド化されないところも「歌」と同じだ。更に小鳥の言葉がわかるようになった勝慶は小鳥に導かれ、武装したまま眠るブリュンヒルデ(実はおばにあたる)の美貌に参ってしまう。炎を乗り越え同女に接吻し永い眠りから覚まし、二人は愛を誓う<以上「第二夜・ズィークフリート Siegfried」>。

ローレライ対岸の曲線にさしかかる北上中のIC
 しかしブリュンヒルデに横恋慕するグンターは勝慶の指輪の奪還を狙うその異父弟ハーゲン(「指輪」では黄金を取り上げられたアルベルヒの息子という設定)の陰謀を容れ、勝慶に女の記憶を消す薬を飲ませ、新妻の記憶を失った勝慶をグンターの妹グートルーネと結婚させ、自分はまんまと何が起きたかわからないブリュンヒルデと結婚する。但し、「指輪」のグートルーネは人畜無害な設定で「歌」のクリムヒルトのような凶暴性は無い。裏切られたと思ったブリュンヒルデから「枯葉の秘密」を聞き出したハーゲンは勝慶の急所を槍で貫いて殺し、返す刀で指輪に対する権利を主張してきたグンターも殺す。全てを知ったブリュンヒルデはライン川沿いに薪を積み上げ火を放ち、忌まわしい指輪と共に焼身自殺する。川は俄かに増水し指輪はブリュンヒルデの遺骸と共に再び川底に沈み、指輪を回収しようとしたハーゲンは溺れる。薪の火はヴァルハラ城に燃え移り、神々の城は崩れ去る<以上「第三夜・神々の黄昏 Götterdämmerung」>。
 ここでようやく話が鉄道に繋がる。ドイツの優等列車には「Johan Strauss」「Ludwig van Beethoven」「Rembrandt」等芸術家名を冠する事が多い。「特急・夏目漱石5号」では何やら猫並のスピードのようでちっとも速そうではないが、この辺りは如何にも芸術を尊ぶ欧州らしい。看板列車の名称に Rheingold が選ばれたのも、地理的に源泉のあるスイスからオランダの河口までライン川と並行するコースを走るのみならず、Wagner の代表作「指輪」がドイツで高く評価されている為だろう。更には「指輪」のベースとなった「歌」はドイツ最大そしてほぼ唯一のドイツ神話だからかも知れないし、ひいては究極の種本のエッダが、ドイツ人の遺伝子に刻まれたゲルマンの遠い祖先の神々の記憶を呼び起こすのかもしれない。そうだとすれば Rheingold という列車名には、ドイツ人には「特急・天の岩戸号」的な響きもあるのかも知れない。
 最後の写真は、ドイツの紫雲たなびく神話時代最大の英雄、勝慶君ことズィークフリートが冒険を繰り広げたとされるオーデンの森 Odenwald を行く保存列車である(牽引機は44型)。

次号では、時代は更にぐっと下って20世紀末、紫雲ならぬ紫のラインを颯爽と靡かせて走った古き佳き豪華列車「ラインの黄金」号が過去帳入りした後の、ある嵐の日の川辺の鉄路の情景をお届けする。
第16話 ラインの黄金 II・嵐編に続く
 
     
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