Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
26.【続・番外編】 美(ちゅ)ら島と氷の島々で海原電鉄の幻を見る

- 水上を行く陸上の乗物を愉しむ -
今回の取材地:
日本
アイスランド
グリーンランド
ドイツ

この世に実際に存在した地獄への引込線を紹介した第8話* は、舞台がまだ欧州だったので辛うじて本連載の射程内だった。だが「千と千尋の神隠し」の海原電鉄を多角的かつ独断的に研究した前号*は、舞台が欧州域外どころか人間世界外という遠方の話なので挿入写真も1枚きりで、欧州鉄道百景ならぬ冥界鉄道一景という番外編になってしまった。今号は懲りずにその番外編の続編で、海原電鉄の如く海上を行く陸上の乗物が現実に無いか、探してみる事とする。

豪州南西端 Busselton には海上2キロ近くも延びる桟橋 jetty の幅一杯に軌道が敷かれ、恰も海中軌道* の観をなしているそうだが、軌道は海面上にあるのでワイルドな橋に過ぎない。水の都ベニスの交通事情も異様だが、これとて普通の船が水没した道路上を走っているに過ぎない。ホーバークラフト* や地面効果翼機エクラノプラン* の海面上の超低空飛行光景も印象的だが、これらは当初から水陸両用だ。水陸両用車は文字通り水陸両用で、Hippo第14話動画*参照) のように異様な外観をしているが、Aquada* のように普通のスポーツカー (一見してマツダのロードスターとわかる) を種車にアンフィ化改造した洗練されたものもあり、これの水上走行シーンは自家用車が海上を駆けるようで面白いのみならず性能もなかなかだ (バージングループの総帥チャールズ・ブランソン卿がこのマツダ改でドーバー海峡を僅か100分の新記録* で横断している) が、Aquada も元々水陸両用だ。水上を行く「純粋の」陸上交通機関となると、あるようで無いが、筆者の知る限り無くも無い。が、その為には少々遠出しなくてはならない。

水上を行く陸上交通機関その1はわが国にある。日本とはいえ鹿児島より台湾の方が地理的に近い遥か南方の美 (ちゅ) ら島、西表島と由布島を結ぶ観光用水牛車がそれだ。見る角度次第では、出力きっかり1牛力の機関車ならぬ機関牛に牽引された1両編成の軽便展望客車が大海原の見えないルートを行く不思議な構図になる。

角度的には遥か水平線を背景に取るアングルが最も広々感を強調できるが、その為には中間地点まで徒歩で渡海し、沖縄の強烈な日射と海面の照り返しにじりじり丸焼にされ、浅瀬の熱い海水に足が茹だるのも厭わず、文字通り牛歩の交通機関を待つ事になる。これに比べ屋根付の車内からの撮影は楽ちんで必須ポジションの最前列さえ確保すれば良いが、最前列2席中1席は御者用なので残るは1席だ。同じ席を狙っていた他の客 (特に子供) がいる場合は一瞬車内にその一家の無言の怒気がたち込めるが、そんなものは南国の風がすぐ吹き流してくれる。


船ではない。乗合バスの前面展望である。

暑い南国の島の次は遥か北の氷の島、水上を行く陸上交通機関その2はアイスランドのバスだ。同国は四国程の島国ながら地形は太古の地球を思わせる雄大さで、島中央には欧州・米国両プレートに引き裂かれる巨大な溝もあり、茫漠とした光景を買われてスターウォーズのロケ地にも選ばれる潜在的観光大国だ。地形がワイルドな為長距離路線バスもそれなりに武装している。

アイスランドのガイドブックにバスが unbridged river を渡るとあり何のこっちゃと思ったら、架橋工事が経済的に見合わない閑散路線ではそのままざぶんと川に入って渡ってしまう、野趣溢れる四輪駆動バスの事だった。四駆は千尋のパパのように林道で危険運転をする為ではなく、このような不整地走破* の為にこそある。渡河中はデッキまで水が入り込んで暴れ回り、楽しくてよろしい。水嵩が高いと岸で一旦停車しエンジンの空気取入口を密閉し客室内からエンジンに給気するが、水深が深過ぎて別の渡河地点を求めて引き返した対向車もあった。

*ちなみにゲレンデ Gelände は和製独語ではスキー場を意味するが本来の意味は不整地であり、このような不整地走行対応車を Geländewagen ゲレンデヴァーゲンという。

㊧対向車から撮影 ㊨増水時の迫力ある渡河シーンの現地絵葉書をスキャン

横風の中を着陸するパイロットは浮揚力維持の為風上方向に機首を斜めに向けながら降下し、接地寸前に機首を直進方向に戻す困難な作業* を強いられるが、入水渡河するバスは逆で、横腹に水流を食らって転覆せぬ様、下流方向にくいっと斜めに向いて渡る。このように下流を向いて入水するので、河口付近で渡河する場合は広い河口の向こうに水平線が見え、短時間だがバスという陸上の乗物が水上を行く海原電鉄状態になる。

この島国には、四駆バス以外にも Høfn の雪上車や氷河湖の水陸両用車等厳しい自然条件に対応した珍しい交通機関が多く、乗物愛好家にはお勧めだ。


㊧氷河湖の水陸両用車 ㊨Høfnの味わい深い旧式雪上車。柔らかい雪の上を無限軌道で移動する
雪上車は無骨な外観に似ず快適な乗物だが、濃霧で絵にならず現地絵葉書で代用。

話は更に北上する。水上を行く陸上交通機関その3はグリーンランドの犬橇だ。北半球最大のイルリサット氷河 (日速20~35mと活発な同氷河は、2004年に世界遺産登録) はグリーンランド西岸イルリサット Ilulissat* (デンマーク名 Jakobshavn )で海に達する。北緯69度13分の北極圏にあるこの村の集落外の移動手段はヘリか犬橇のみだ。犬1頭の牽引力は弱いうえ遠出する場合は万一に備え重い組立式テントも橇に積む必要があり、牽引力確保の為多数の犬を要し、結果イルリサットでは人口より犬口の方が多い。


峠越えの図。上り坂(左)では人は橇を降り徒歩。下り坂(右)
では逆に橇が犬を引きずり落とすので前方に犬がいない。

犬は牛馬に比べて牽引力が格段に弱く、山越ルートでは15頭立てでも上り坂では犬の負荷軽減の為人は橇から降りねばならない。問題は下り坂で、地球の引力の暴力的強さを思い知るのに頂上から数秒とかからなかった。筆者を乗せた橇は忽ち犬どもを追い越し、逆にブレーキ役となったけなげなワンちゃん達を容赦なく引きずりながら氷の斜面を暴力的な速さで滑降する。上の写真右側は坂落としの一瞬を切り取った一枚だ。24ミリの超広角レンズを用いたので高低差も緩和され2000分の1秒の高速 シャッターに予めセットしていたのでブレもなく穏やかに見える。だが現実はゴツン・ゴリゴリ・ドカン!・・とダッチロール急降下のパニックの中で、ファインダーに目を当てるどころか橇から片手を離す事すら危険な状態だったので、カンで数枚適当にシャッターを押して (偶然撮れていた1枚がこれだ) すぐにカメラを胸の防寒着内にしまう有様だった。

隆起の上をゴツンと駆け抜ける度に重い橇が威勢よくジャンプし、ある程度下って犬達が追いついてからでも坂の途中の岩や氷の隆起を急回避して橇が曲がり切れず横腹が岩に激突し (ワンちゃん達は学校で遠心力という概念を習わないので責められない)、ワイルドさはどの絶叫マシンにも勝る。もしバランスを崩せば転倒して氷や岩に頭から特攻する危険があり、それこそ「楽復門」第25話*参照) の反対側まですっ飛んで行ったまま帰って来れなくなる。こんな所で屍を晒して堪るかと、夢中で四つん這いで橇にしがみついた時胸にできた角張ったニコンの青痣がしばらく痛かった。坂落としだけでも十分怖いのに眼下に敵の大軍が犇く中に寡兵で逆落としをかけた源義経はやはりエラい、こりゃ鵯 (ひよどり) 越えの逆落としならぬフィヨルド越えの坂落としだな、と親父ギャグ的歌想に耽る余裕だけはあった。


起伏に富みスピードの出ない陸路(左)とは対照的に、単調な海原(右)は距離を稼げる
高速ルートだ。最短経路という海上の見えない直線軌道上を急行する犬橇隊3隊を鳥瞰。

比較的高速で安定走行ができる区間もある。冬季はつい最近までは、特にディスコ湾周辺の海面は沿岸数キロにわたって氷結し、広大な平面が海上に出現し事実上の高速道路の機能を果たしていた。この冬季限定の海路は陸路に比べると乗心地も良好、多くの犬達を制御するイヌイットの青年の裏返った奇声を BGM に、陸上交通機関である橇が遥か水平線をバックに広大な海面を船のように滑って行く、海原電鉄状態となる。


結氷に閉ざされた船の鼻先の海上を犬橇が駆け抜ける

氷結した海上を犬に牽かれていると、温帯の生物機関車の代表格である馬が (仮にこの寒さに耐えられたとしても) ここでは交通機関の動力源として不適である事がよくわかる。馬1頭の牽引力は犬何十頭分にも相当するだろうが、仮に北極犬10頭と比べてみよう。馬は重い体重を僅か4本の脚で支えるので、氷が薄いと蹄が氷を踏み抜いてしまうだろうが、犬10頭だと脚は40本、これなら総体重も分散される。また40脚の方が4脚より総接地面積も大きく、更に蹄よりも肉球+爪の方が氷雪の上でも滑りにくい。燃料代わりの食料も、植物が貴重な極地では草食の馬はとんでもない美食家だが、犬は肉食なので冬季でも出先の海や川の氷を割って魚を「現地調達」できる (ちなみに人間様の食事は新聞紙に無造作にくるんだ凍ったアザラシの生肉だ)


給油ならぬ給餌は穴釣器の巻上という重労働を伴う。㊧発汗と吐息は釣り上げた魚同様忽ち凍り、
イヌイットの23歳の青年が白髭の老爺に見える。㊥餌撒狂騒曲 ㊨海上給餌を終え帰投中の1隊。

同行したイヌイットの青年が今日は零下23度で暖かいやとか嘯いていたが、氷結した海上を座ったまま冬風に吹き曝しでは、全身を生臭いアザラシの毛皮で武装しホッカイロを総動員しても日本人に耐えられる寒さではなかった。だが地球温暖化の影響はここにも及び、ここ数年は海面の氷結が無いという。これは単に冬季限定の海上急行線の消滅を意味するにとどまらない。グリーンランドに堆積した膨大な氷が全て溶けたら地球上の海面が7m 弱上昇するという恐ろしい試算もある。そうなると楽復門のトンネルは大行列、海原電鉄も2両編成ではとても捌ききれなくなり、笑い事ではなくなる。

世の中は広い。千尋一家のように危険運転をして不必要に早く「楽復門」をくぐらずとも、このように広大な水面を行く陸上の乗物を愉しむ事さえ可能なのだ。鉄道記事なのに脱線が多いとは物騒な、と時々お叱りを受けるが、番外編の今回はとりわけ脱線が多かったのはご容赦戴きたい。脱線ついでにマックドライブで筆者の車の前に何気に並んでいた馬君の見返り姿を、文中で犬の引立役に使った贖罪を兼ねてご紹介しておく。

次号は「本線」に戻り、ドイツの鉄路の新たな正面玄関となった、ベルリン新中央駅をリポートする。

 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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