Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
29. アルストム帝国の凱歌と憂鬱

- TGV その2 -英仏海峡特急ユーロスターと巨大な海底カーフェリー -

Der gelbköpfige TGV unter Wasser – Der Eurostar
今回の取材地: イギリス フランス ベルギー 日本


上:ロンドン・セントパンクラス駅の華麗な駅ホテル。下:ユーロスターの面構えは
TGV一族の顔を少し釣り目にし、英国規格の警戒色である黄色に塗ったものだ。
Nach vielen kreativen technischen Umsetzungsvorschlägen für die Verbindung zwischen
England und dem Kontinent unter der Straße von Dover (z.B. der Vorschlag aus Napoleons Zeiten,
unter dem Kanal einen Tunnel mit Luftschächten an die Meeresoberfläche zu bauen und einen
Transport mit Pferdekutschen zu betreiben) wurde 1994 schließlich der Eurotunnel verwirklicht, durch
den heute ein "modernes Rennpferd" mit TGV-Technik rast, der Hochgeschwindigkeitszug "Eurostar".
6 「国境の長いトンネルを抜けると英国であった。」

1802年、時の皇帝ナポレオン・ボナパルトにフランスの技術者 Mathieu-Favier が海面上に換気口を所々設ける馬車方式の英仏海峡トンネル案を献言したが、トンネルを抜けた頃には馬糞臭が毛穴まで染み込んでいそうなこの計画は英仏関係悪化で没となった。その後も多くの海底トンネル計画が泡のように浮かんでは消えたが、遂に1994年に英仏海峡は 鉄道トンネル(註26) で結ばれ、現代の駿馬 TGV がユーロスター Eurostar (註27) の愛称で海底を一陣の風と共に35分で駆け抜けた。TGV が遂に大ブリテン島上陸を果たした瞬間でもあった。大陸側の海峡トンネル入口にはユーロトンネル社のロゴが誇らしく大書されている。当初はトンネルをイメージした円形デザインだったが、近時ポップなものに変更された(次の写真・右上)

 
(註26) カレー Calais とフォークストン Folkestone を結ぶ Channel Tunnel / tunnel sous la Manche の海底部37.9kmは世界一。全長50.5kmは青函トンネルの53.9kmに次ぐ世界第2位だが、全長57kmのゴッタルドベーストンネルGotthard-Basistunnel (スイス)が完成すればこれが世界最長の鉄道トンネルとなる。
(註27) 同じく「欧州の星」の名を冠する列車はイタリアにもある。尚、中国が自力開発を試みた高速列車も「中華之星」を名乗ったが性能に限界があり、日欧からの技術導入に方針を変更した点については次号第30話後半参照。


左上:ヨークの鉄道博物館National Railway MuseumでJR西日本から寄贈された
新幹線0系と向き合うユーロスターのモックアップと、トンネル断面のイメージ。
下:凱旋門駅から急行地下鉄RERで3つ目のパリ北駅からユーロスターに乗って
ほんのひとっ走りで、黒塗りのロンドンタクシーが左側通行で走る英都に着く。
Oben: East meets West – Im National Railway Museum in York stehen sich das Mockup des Euro-
stars und der Kopfwagen der Baureihe 0 der damaligen Japan National Railway gegenüber, die 1964
weltweit als erste eine dauerhafte Geschwindigkeit von 200km/h erreichte. Unten: Paris und London –
Diese beiden komplett unterschiedlichen Städte sind nun auf dem Landweg miteinander verbunden.

ユーロスターはトンネル開通と同年11月14日に営業を開始し、英国-フランス、英国-ベルギーの3首都を最高時速300㌔で結んだ。高速新線建設費抑制の為3首都を三角形ではなく中間のリールを基点 (ここに設けられた駅は「欧州のリール Lille Europe 」と命名) に放射状の三ツ矢形に線を引いた為、それぞれ多少 遠回り (註28) になってはいるが、航空機で1時間弱の各区間をロンドン-パリ最速2時間15分、ロンドン-ブリュッセル最速1時間51分で都心同士を直結した威力は絶大で、ロンドン・パリ間の輸送シェアは2007年度で71%と 航空機を圧倒 (註29) している。尚、残りの一辺はパリ-ブリュッセル-アムステルダムという、既に60年代の TEE 時代から高速列車銀座だった回廊の一区間を更に強化したもので、パリーブリュッセルを最短82分で結ぶ。

 
(註28) ユーロスターの好成績を受けて今になってアミアン経由の短絡ルート建設案が出てきているが、需要予測とは難しいものだ。
(註29) ここが青函トンネルとの決定的な差で、鉄道の移動時間が約3時間を超えると旅客が航空機に流れる現在の傾向では、全線新幹線で結んでも首都圏⇔札幌の主要旅客を航空機から奪う事はできない。投下資本の回収が見込まれ多くの国の投資家が建設資金を分担したユーロトンネル(運営会社は2006年に一度破綻したが、2007年には初めて黒字を計上するに至った)に対して、日本1国の納税者が半永久的に赤字必至のトンネルの為に巨額の建設費を負担するのだから、経営環境には雲泥の差がある。1987年に当時の大蔵省主計官が戦艦大和・伊勢湾干拓と並ぶ昭和の三大馬鹿査定と呼んだこの青函トンネルプロジェクトは、一票の格差による地方の過剰代表が可能にした側面もあろう。


中:英国国内線ホームから金網で隔離されているロンドン・セントパンクラス駅
国際線ホーム。Way Out, Sortie という2ヶ国語表記が線の性格を物語る。
Mitte: Der Bahnsteig für internationale Linien im Bahnhof London St. Pancras ist
vom nationalen britischen Liniennetz vollständig getrennt. Seine Internationalität
zeigt sich auch in den zweisprachigen Hinweisschildern "Way Out / Sortie".

このうち英国区間は高速新線 HS1 (註30) の建設が遅れ、当初は在来線を通勤電車に混じって速度を80マイル (約130㌔) に抑えて走っていた。この区間は架線が無く、東京地下鉄丸の内線や銀座線のように第三軌条 (第10話 参照) から集電する方式だった。この為、天下の TGV がパンタを降ろして気動車のように架線の張られていない丸坊主の線路を走る珍光景が HS1 全線開通 (2007年11月 (註31) まで見られたが、現在は地上は英国区間も含めて最高時速300キロ、海底トンネル内は同160キロで運転されている。

 
(註30) 海峡トンネル連絡線 Channel Tunnel Rail Link=CTRL ともいい、2009年からロンドンとケント州を結ぶ時速225㌔の高速通勤列車の運転も計画されている。この車両は 日本製高速鉄道の対欧輸出第1号でもある。
(註31) この時のダイヤ改正でロンドン側終着駅はウォータールー Waterloo 駅からセント・パンクラス St. Pancras 駅に変更されたが、パリ側の終着駅は一貫して北駅 Paris - Gare du Nord


セント・パンクラス駅(上)とユーロトンネルの大陸(フランス)側入口(下)、
2012年。五輪のシンボルが誇らしく掲示されたが、大時計も隠れてしまうし、
どうして中央からずれているのか不思議に思ったのは筆者だけだろうか。
St. Pancras (oben) und der Eingang zum Eurotunnel auf Kontinentalseite (unten)
2012. Stolz werden die olympischen Ringe präsentiert, allerdings verdecken sie die
große Bahnhofsuhr und wurden aus irgendeinem Grund nicht mittig aufgehängt.

英国には鉄道を時速300㌔で運行する実績は無かった (註32) 為ユーロスターの車両は仏 TGVをベースに英国規格に合わせる変更 (車体幅縮小・第三軌条からの集電靴設置・多電源対応 (註33)・多段階自動ステップ設置・前面塗色を黄色の警戒色化等) を行い、また線路容量が限られている為両端機関車が18両もの連接客車を挟む20両編成 (註34) とし、標準的なA320なら5機分に相当する750名強を一気に運ぶ事ができる。但しトンネル内の事故の際に半分だけでも脱出できるよう編成中央は連接台車とせず、分離可能な通常の構造にしている。

 
(註32) 英国国産最速の IC225はその名の通り時速225㌔運転を目指して作られた。
(註33) 仏高速新線は交流25kV(JR新幹線と同じ)、英国在来線の一部は路面電車並の直流750V(しかも架線無し)、ベルギー在来線は直流3kV、このバラバラな規格を直通するのだからユーロスターは実に器用な列車だ。こういう倦む事なき努力を見ていると些細な困難を並べ立てる者が皆愚物に見えて困る。
(註34) 機関車次位の客車の機関車寄り台車もモーター付としたので1編成中電動台車6台・無動力台車18台となり、1両当たり台車2台の通常の電車に引き直せば3M9Tに相当する。


1等車をビジネス・プルミエーと呼び、駅にラウンジを設ける辺りは航空機の
ビジネスクラスを意識しての事と 思われる。車内は2+1の座席配置だがシートピッチは
欧州の1等車の標準からは狭いが、乗車時間は短いし、 ライバルの航空機も
欧州域内線ではビジネスクラスも前後間隔を詰めているので、これでいいのだろう。
Der Service in der 1.Klasse des Eurostar konkurriert
offensichtlich mit der Business Class im Flugverkehr.
7 ロンドン以北への延伸

フランス行ユーロスターの大半はパリ行だが一部はアヴィニョンやアルプスまで足を伸ばす。逆に大陸からのユーロスターは現在は全てロンドン止まりだが、スコットランド方面への直通運転の可能性検討の為に、フル編成 (註35) から4両抜いた16両編成 (「North of London set ロンドン以北編成」*GNER 社 (註36) にリースされた。(民営化後新車を意欲的に投入しているバージン社とは対照的に) 英国国鉄 BR時代の煤けた (英国は今でも電化率が低い) 旧式車が多い GNER 車群の中に White Rose Train の名で突如狂い咲いた超高性能のフランスの白い薔薇は、大いに目立ちつつ2005年頃までロンドン・キングスクロス~リーズ間で運転された。対航空機競争に耐える軌道強化コストが見合わなかったのか、結局ユーロスターのロンドン以北への乗入は見送りと発表された。大ヒット商品TGV を製造する仏アルストム社としては英国進出の野望はロンドンで打ち止めとなった形だが、同社にとって頭痛の種が更に出てきた。2010年、次世代車両の競争入札の結果、フランスのTGV方式ではなく独 Siemens 社製の Velaro e320* の採用が決定したのだ。同じくSiemens製の次世代 ICE (おそらくICE4と通称されると思われる)Velaro D* を用いてドイツ鉄道 DB が英国に乗入予定である事を考え併せると、イギリスの超高速列車市場でのドイツの存在感は近い将来急増する事が予想される。

 
(註35) 3首都を結ぶフル編成は文字通り「 Three Capitals set 三首都編成」と呼ばれ、3国の各国鉄 SNCF BRSNCB がそれぞれ同形式を導入したが、英BR保有編成はBR民営化に伴いユーロスター運営会社の子会社が承継。
(註36) Great North Eastern Railway 大北東鉄道、2007年12月以降 National Express 社が事業を承継。


下:かつて英国を代表した急行列車「空飛ぶスコットランド人」専用機は世界最速蒸機
マラード号(第28話参照)と共にヨーク鉄道博物館で保存されている(撮影時はオーバー
ホール中)。黒と赤でドイツ機のようだが、取り外されているボディは鮮やかな緑色だ。
Zwei repräsentative britische Schnellzüge, heute und gestern: Der damals in GB schnellste
Zug, der "Flying Scotsman", soll sogar während der Bombardierung durch die deutsche
Wehrmacht im zweiten Weltkrieg fahrplanmäßig gefahren sein. Das untere Bild zeigt die
Dampflok des Flying Scotsman, die im National Railway Museium von York überholt wird.

第二次大戦中ドイツ軍の爆撃のさなかもロンドン午前10時発の伝統ダイヤを守り通したという英国縦断急行フライング・スコッツマン Flying Scotsman 号は、かつては世界最速の蒸気機関車マラード号 (註7参照) が属する LNER Class A4* が颯爽と牽引していたが、今日の牽引機・IC225用91形電気機関車は他の欧州諸国と比べて性能的に見劣りがし、鉄道発祥の地・英国の鉄道技術の地盤沈下を象徴する。折角リースしたユーロスターの North of London 編成を投入する計画は杳として聞かないままリース契約は終わってしまったようで、色を塗り変えてフランスに戻ってしまった。英国内の看板列車に外車を用いるのは大英帝国の沽券にかかわるのだろうか。

 
8 欧州統合に距離を置くイギリスと直結するという事


Sichtbare Resultate des Schengener Abkommens. Links: Im Bahnhof Paris Nord gelangt man
ohne Passkontrolle auf den Bahnsteig der internationalen Züge, die nach Deutschland oder
Belgien fahren. Nur der Bahnsteig für Züge in Richtung GB ist eingezäunt. Rechts: Um illegalen
Einreisen vorzubeugen, wurde der Raum unter dem Bahnsteig im Bahnhof Brüssel-Midi, der
normalerweise Zuflucht bietet, wenn Fahrgäste vom Bahnsteig stürzen, mit Beton aufgefüllt.

違法入国者 (註37) を警戒する英国がシェンゲン協定 (註38) 未加盟なばかりに、空港や海港のみならず陸路でも入管という関所が必要になり英国直通列車乗場は大仕掛けになる。独伊蘭白等多くの国への国際列車が発着するパリ北駅では、英国方面ホームのみ入管を設けホームを隔離する異様さを、壁をガラス製とする事で目立たないようにしているが、密入国への警戒心は隠しようもない (左上下)。欧州統合に向けた大陸と英国の温度差がそのまま駅の構造にも持ち込まれた形だ。ブラッセルのミディ駅では急カーブにホームが設けられている為、ホームと車両の間に大きな間隙をタコ足状のステップでもよいしょと一跨ぎする感覚なので隙間も良く見える。線路に転落した乗客が列車から退避できるようにホームの下に蹴込み式の空間を設けている場合が多いが、英国線ホームではコンクリートブロックで退避空間が塞がれている。これも密入国対策だろう。

 
(註37) 英国の懸念は杞憂ではなく海峡トンネル経由の違法入国は後を絶たずその多くがトラックの荷室に潜んだ為、英国は荷物室内部の僅かな心拍音や呼吸音を検知する超高感度の生体反応発見器を導入した。
(註38) 人の自由移動という欧州経済共同体(当時)の目的の一つを具体化する為、1985年にベネルクス3国と欧州統合の中心メンバーの独仏の5カ国で調印。この翌年には単一欧州議定書が調印され、欧州統合に弾みがつく事になる。脱稿日現在、シェンゲン協定には英・愛以外の全てのEU加盟国とスイス等の周辺国が調印済。参加国間の移動ではパスポート検査を廃止、航空機も国内線ターミナルを利用する。国境標識があるだけのシェンゲン当事国である独墺国境の例はこちら


The Shackled Supertrain: Im Bahnhof Bruxelles-Midi ist der Bahnsteig der Züge nach England
von der "freien (Schengener) Welt" durch einen Drahtzaun abgetrennt (links oben). Auch der
Zug selbst bleibt bis kurz vor Abfahrt abgesperrt hinter diesem beweglichen Zaun (unten).

パリ北駅よりもこじんまりしたブラッセル・ミディ駅には不埒者の進入も容易なのか、密入国防止策は徹底している。大陸各国行のホームとは金網で仕切られ、フランス方面のTGV-Aやドイツ方面のタリスが自由に行き交う様子が「壁の向こうの自由世界」のように見える (左上)。極めつけはユーロスター前方で、可動式の柵で列車そのものが発車寸前まで「監禁状態」におかれる (下)。念の入った事だ。



Um stacheliges Gefühl durch die strenge Einwanderungskontrolle zu entschärfen,
hat man sich einiges einfallen lassen: Der Ausblick von dieser Bar mit dem
breiten Fenster lässt das Herz jedes Eisenbahnfreunds höher schlagen.

メスキータ* に似た赤白縞アーチが印象的なロンドン側終点・聖パンクラス駅もユーロスターホームは在来線とは金網、自由通路とはガラス壁で隔離されている。しかしこの駅は厳格な出入国管理に伴うとげとげしさを和らげる為のさまざまな工夫が見られる。国際線ホームと自由通路を隔てる長いガラス壁を逆に活用し、これに沿ってユーロスターの連接台車を眼前にグラスを傾ける事のできる 臨鉄バー* が設けられており、鉄道愛好家はここに寄らない手は無い (上の写真・左上)。人目を惹く巨大で奇抜なオブジェもそこここに置かれ、或いは空中を漂っている (次の次の写真・上)



「臨鉄バー」の傍らを走る列車。こう見ると英国規格の車両
サイズは小さく、日本の在来線並みである事が良く分かる。

出入国管理に限らず英国は欧州では異質の大国だ。ドーバー海峡を越えるといきなり車は左側を走り、度量衡も変わり、島国の通有性か文字標識が増え (日本もその傾向がある) 、法体系も制定法中心の大陸法から判例法中心のコモンローに一変する。欧州統合にも常に 距離を置き (註39) 、欧州共同体参加は欧州の大国中一番遅く、欧州通貨統合にも未参加だ。川端康成は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という小説の 第1文 (註40)(旧) 清水トンネル (約9.7㌔) が貫く本州の脊梁山脈が隔てる関東平野と越後山中の別世界ぶりを表現したが、海峡トンネルの両側の世界の落差は遥かに大きい。この異世界がTGVの技術のお蔭で僅か2時間余で陸路結ばれたというのは素直に感嘆に値する。

 
(註39) そもそも欧州連合EUの原型の欧州経済共同体EECは、国家主権を一部委譲した超国家機関に独仏国境地帯の地下資源の管理を委ねる事により戦乱を元から絶つ事を目的とした欧州石炭鉄鋼共同体ECSCの哲学と法技術を経済全般に拡大したもので、独仏連合こそが中核にある。
(註40) この後の「夜の底が白くなった。」に対応する第2文を考えるとすれば「羊の数が多くなった。」というところか。


"Full house" auf allen fünf Gleisen in St. Pancras.
Dieser Bahnhof bietet dem Auge viel Ablenkung.

9 ユーロトンネル会社の奮闘

小さな政府を掲げるサッチャー首相 (当時) が税金投入を拒否した事もあり、英仏海峡トンネルは通過列車の線路使用料を収入源とする民営の ユーロトンネル会社* が運営する。通過列車には TGV ベースの上記ユーロスターの他、貨物列車やカーフェリー列車もあるので後者も紹介しておこう。ユーロスターの営業開始に先立ち、英国製機関車 (註41) 2両が巨大な車両運搬車を挟むカーフェリー列車「ユーロシャトル Euro Shuttle(当初の愛称はル・シャトル Le Shuttle が開業した。大型トラックもそのまま収容できる貨車は、日本規格より一回り大きい機関車より更に大きく女王蟻の巨大な腹部のように膨らみ、乗用車積載車は余裕の二階建てだ。乗用車の客はそのまま自車内に留まるが、上客の 長距離トラック (註42) 運転手はラウンジで寛ぐ。

 
(註41) Class 9 と称し、6軸のF級機で最高時速160㌔。良く見ると照明が IC225 用英国最速機 Class 91 のものとそっくりだ。この中の9025号機と天空のトンネルを行くスイス・ユングフラウ鉄道との相互命名については 第21話 参照。
(註42) 統計 によると海峡トンネル通過列車中、最も伸びているのがトラックのフェリーサービスだ。


頭部より巨大な胴体は女王蟻を連想させる。機関車寄り扉は上層階、隣の
扉は下層階用の入口だ。積載の模様を外部から見た様子はこちら。高い
位置に張られた架線に届くよう大上段に振りかざしたZパンタが印象的だ。
Die riesige Autofähre "Euro Shuttle" erinnert mit ihrem Rumpf, der
viel dicker ist als der Kopf (E-Lok), an eine Ameisenkönigin.

このユーロシャトルを含め、欧州の 自動車運搬列車 (註43) は私の知る限り全て自走式なので積込はスムーズだ。JRのカートレインを利用した際、車を何とフォークリフトで1台ずつ積み込んでいるのを見てその超非効率に絶句した (案の定廃止になった)。JRの狭幅車体では自走式には狭すぎるとの判断だったのかもしれないが、軌間こそ大陸並だが車体幅はほぼ日本と同じ英国 (ロンドン・ユーストンとスコットランドを結ぶ夜行に連結) も自走式で、何の問題もなかった。

 
(註43) カートレイン(独:アウトツーク Autozug)は北独・イタリア間等の長距離移動で客は寝台車で過ごす方式を指し、スイスに多い峠越え道の短絡トンネル等、短距離で客が車内に留まる方式の場合はカーフェリー(独:アウトフェーレ Autofähre)というので、ユーロシャトルはカーフェリーの類型に属する。


上:ショッピングセンターの屋内駐車場に非ず。巨大シャトルの車内、上層階へのスロー
プだ。下:大型乗用車の両側も歩行者用の余裕がたっぷりある車内は「船内」の感覚だ。
Das Innere des Euro Shuttle wirkt wie das Parkhaus eines Einkaufszentrums (oben) oder
wie das Innere eines Schiffes (unten). Es bietet so viel Platz, dass selbst wenn ein dicker
Mercedes S-Klasse einfährt, auf beiden Seiten immer noch genug Platz für Fußgeänger bleibt.

自家用車の利便性向上やトラックによる環境負荷低減と運転手の長時間労働防止の為にも、わが国でも簡便なカートレインの普及が望まれる。そもそも建設に巨額の税金を注ぎ込んだ青函トンネルでは (自己責任原理で動く投資家の) 民間資金で掘った英仏海峡トンネル以上の意味で有効利用が至上命題の筈だ。しかし (開通と同時に超高速旅客列車・通常貨物・カーフェリー列車が行き交いフル稼働となった英仏海峡トンネルとは対照的に) 青函トンネル開通後20年余も経た脱稿日現在に至るも、青函自動車運搬列車は 実現に至っていない (註44)

 
(註44) 3首都を2時間前後で直結して地の利のある英仏海峡トンネルより費用対効果が劣る青函トンネルの有効利用の方法の一つを封印してしまう事の論拠として「民業(船会社を指す)を圧迫してはならない」との主張があると報道された。利用者も納税者も視野に無い、相変わらずの供給者のみの視点での議論には、ただ脱力感のみを覚える。
 
10 英国連絡用TGVとマグル界連絡列車が邂逅するロンドン新ターミナル

ユーロスターの英国側終点は当初は第三軌条方式で架線の無いウォータールーWaterloo駅だったが、2007年以降セント・パンクラスSt. Pancras駅発着となった。美しい城郭のような威容を誇る同駅を簡単に紹介する。



2012年に丸の内駅舎保存復元工事が完了した日本の東京駅(下)
同様、セント・パンクラス駅(上)も英国を代表する駅となった。
St. Pancras (oben) und Tokyo Hbf (unten), zwei historische Bahnhöfe und
Symbole der Hauptstadt des jeweiligen Landes, wurden Anfang des 21.Jahr-
hunderts komplett renoviert, und beherbergen jeweils ein herrliches Hotel.

ヴィクトリア期の1873年 (明治5年、岩倉使節団が帰国した年だ)、当時 ミッドランド鉄道* の終着駅だった聖パンクラス駅に George Gilbert Scott の作になる教会のようなゴシック様式の美しいホテルが開業した (Midland Grand Hotel)。1935年の廃業後は鉄道の事務棟として使われていたが、耐火基準を満たさず1980年代に使用停止、以来廃墟状態になっていた。しかし同駅にユーロスターのターミナルとして白羽の矢が立ってから運命が変わり、英国の鉄道の表玄関という檜舞台に躍り出た。駅舎のドーム部分は5線全て国際線専用となり国内線ホームはドーム北西端から北側に追い出された形になった。従ってドーム内に発着する列車は全て流線形・黄色顔・一つ目小僧のユーロスターのみで、これは近い将来大陸からICE4等が乗り入れてくるまで変わらないと思われる。



左下:ホームのレリーフには同駅のドーム内部でユーロスターと思しき列車と旧式客車が
並んで停まり乗客が交歓している、タイムマシンのような不思議な構図が描かれている。
下の写真2葉とも、国内線ホームは左奥にひっそりと設置されている。
Das Relief am Bahnsteig zeigt ein wundersames Bild von Fahrgästen eines
an den Eurostar erinnernden Zuges, die sich fröhlich mit den Fahrgästen
des uraltes Züges austauschen – also ein Relief der Zeitmaschine.

聖パンクラス駅舎内には2011年にマリオット系のセント・パンクラス ルネッサンス ロンドン ホテル St. Pancras Renaissance London Hotel* が新装開業した。その国を代表する超高速列車のターミナル駅でありながら威風辺りを払う歴史的駅舎が今世紀に入って抜本的更新工事を受け、素晴らしいステーションホテルが入居している点で、東京駅の丸の内駅舎と似ている。東京駅のステーションホテルも改装前はビジネスホテル並みの値段でクラシックな雰囲気と最高に便利な立地を享受する事ができたが、改装後は一気に高級ホテルの仲間入りをしたが、St. Pancras Renaissance London Hotel は宿代の高いロンドンの中でも強気の価格設定で、ロイヤルスイートは1泊 5000 ポンド (本稿最終更新時のレートで約85万円) 也だ。



Das St. Pancras Renaissance London Hotel der Marriot-Kette wirkt zwar etwas farbig überladen, wurde aber sehr
schön renoviert, wobei die hübschen gotischen Strukturen aus viktorianischen Zeiten von 1873 zur Geltung
gebracht wurden. Das Zimmer mit Fenster auf den Bahnsteig ist ein heißer Tipp für Eisenbahnbegeisterte.

更新工事の結果やや色彩過剰となりハリーポッターのホグワーツ城的渋さを期待すると食傷気味になるかもしれない。ホテルの随所に廃墟時代の写真が飾られており、これらは定点撮影のようで面白い趣向だ。インテリアは美しく、非宿泊客も利用できるカフェは切符売場 booking office の名の通りかつての切符売場の面影を残している (下)。柔らかいソファがそこここに置いてありブリティッシュパブのような寛ぎを演出しているところがイギリスらしい。鉄道愛好家にはホームに面した部屋がお勧めだ。



Die Endstation des Eurostar in Paris Gare du Nord liegt in Fußnähe des Gare de l'Est; vom
Bf. St. Pancras gelangt man nur quer über einen schmalen Weg zum Bf. Kings Cross.

ユーロスターのパリ側終着駅の北駅は東駅と徒歩圏だが、ロンドン側終着の聖パンクラス駅はキングスクロス駅とは狭い道路1本隔てただけなので乗換は容易だ。東京駅内の新幹線ホームと京葉線ホーム間よりも遥かに近く、両者は機能的には一つの駅と言っていい。地下鉄 Tube の駅名も 「King's Cross - St. Pancras」 と併記されている。ノッティンガムやダービー方面の East Midlands 鉄道や2012年夏のロンドンオリンピック会場と結んだ Olympic Javelin はこの聖パンクラス駅から、また現在は91形電機が牽く急行 Flying Scotsman 号、ケンブリッジ方面の近郊電車、それに ホール級 Hall Class (註45) 蒸機 (次の写真左側) が牽くホグワーツ城 Hogwarts Castle 行の魔法列車は、キングスクロス駅の方から出る。但し最後の列車は石壁を透過した向こう側、9¾番線からの発車なので、訓練が足りないと頭にコブを作らないよう注意が必要だ (次の写真右側)

 
(註45) Great Western Railway では中級機をホール(広間)級、その上級機を Castle Class (城級)と区分してそれぞれ沿線のホールや城の名前が命名されたが、ハリーポッターの撮影に使われた5972号機はホール級機で本名が「オルトン・ホール」号だったにもかかわらず「ホグワーツ城」号の銘が打たれたので、「城になったと勘違いしたホール」と揶揄された。
 

   
ホグワーツ城行き蒸気機関車
‐箒(ほうき)の忘れ物に注意 -
Richtung Hogwarts Castle –
Besen nicht vergessen!
9 3/4番線 - 怪我に注意 -
駅改築工事で場所がセント・
パンクラス駅寄りに移動した。
Gleis 9 3/4 – Achtung, nicht stürzen!

このように、アルストム社はロンドン以北への延伸こそ攻めあぐねているが、その傑作TGVを海を越えて英国に上陸させるところまで成功した。そして超高速鉄道の市場は欧州外にも広がりつつある。ただ超高速鉄道は巨額の予算を要する国家プロジェクトであるうえ、産業の裾野の広さから輸出先の既得権益との摩擦や、異なる政治体制への対応等の困難は避けられず、超高速鉄道システムの輸出には多くの壁が立ちはだかる。ましてや欧州から遠く離れ、直通運転のメリットをアピールできない国々では壁は一層厚くなる。次号第30話では、この手強そうな石壁を手押トロリーで突破するのに勝るとも劣らないブレイクスルーを見せたTGVの世界戦略の、現在進行形の成功物語と直面する困難をご紹介する。


次号第30話は、ソウル・北京・上海からお届けする。

Nächster Halt: Seoul

Fahrplanmäßige Ankunft: November 2008


 
(2008年8月 / August 2008)
 
 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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