Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint z.Zt. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
30. アルストム帝国の野望

TGV その3  - 超高速鉄道三国志の舞台は中原(ちゅうげん)へ -
今回の取材地:
韓国
ドイツ
イギリス
アメリカ 中国 台湾


ソウル駅に到着する KTX。 一見して TGV-A がベースとわかる。
11 日独仏の三雄割拠

現在、時速300㌔級の世界の超高速鉄道市場は日独仏3国の規格が鼎立する三国志的状況にある。アグレッシヴな TGV が魏の曹操、戦い方のスマートな ICE第11話*参照) が呉の孫権、自国内の和を重んじ天下に必ずしも野心のない新幹線が蜀の劉備玄徳、という喩えは身贔屓か。このうち「魏」 (フランス) がレール式高速記録では突出しているが、「呉・蜀」 (ドイツ・日本) はレール式とリニア式第1話*参照) の二刀流を使いこなす形でうまくバランスが取れているのも面白い。筆者の知る限り、脱稿日現在で仏 TGV を購入 (ライセンス生産を含む、以下同じ) した国は ベルギー*イギリス*スペイン*スイス*韓国*アメリカ*、独 ICE を購入したのは オランダ*スペイン*ロシア*中国*、そしてわが新幹線を購入してくれたのは 台湾*中国*、そして間もなく英国*も顧客リストに加わる。版図が拡大すれば政治体制や知的財産権に対する考え方が異なる国もターゲットに入ってくる。今号では TGV を製造するフランスのアルストム社の世界展開の数例と、「前線」での困難をご紹介する。



フランクフルト中央駅(註46)に仏
TGV-POS 試運転列車(右)がひょっこり現れ、しかも独 ICE3 (左)
の隣に入線した二重の偶然がもたらした、独仏エース機同士の珍しい場所でのツーショット。
アジアとの関係でいえば、右の一代前のモデルが韓国KTXの、左が中国CRH3の、それぞれのベースとなった。

12 韓国 KTX

まず、TGV らしさを色濃く残している KTX から取り上げる(註47) 。2004年開通の KTX はソウルと釜山約 400㌔ を現在2時間40分で結ぶ。韓国の在来線は1435mm の国際標準軌を採用しているので、狭軌が主流の日本と異なり高速新線を少しずつ延長しその先は自由に在来線に乗り入れる欧州方式が取られる。入札で日本に競り勝ったフランスの TGV 第2世代の TGV-A を焼き直した KTX は営業最高時速も TGV-A (登場時) と同じ 300㌔ なので、開業と同時に JR西日本の500系と並ぶアジア最速ランナーとなった。

KTX・セマウル・ムグンファ等様々な列車が発着するソウル駅ホームでまず気付いた事は欧州勢のプレゼンスの大きさだ。KTX の大群はフランスの TGV だし、最新鋭の電機の外観はDB101*そのもので一目でドイツ製とわかる。そういえばホームの低さも、全天候対応のドーム構造も、欧州の大駅を髣髴とさせる。

 
(註46) 脱稿日現在パリからドイツに乗り入れるTGV-POSはフランスと国境を接するドイツ南西隅のバーデン・ヴュルテンベルク州の州都 Stuttgart 止まりで、ヘッセン州の要衝 Frankfurt am Main まで長駆するのはICE3のみだ。
(註47) KTX第2世代 もTGVベースだが外観は一変する見込だ。



KTX (右)がフランスの香を含んだ風を巻きながら出て行った後に続いてやってきたのは DB101
そっくりのドイツ機(左)。
KORAIL (韓国鉄道公社)のロゴを見て、ここは欧州ではないと気付く。
独仏機の並びは欧州ではもはや日常の光景となった(第11話や上の写真参照)が、
欧州から遥か遠くの韓国でも独仏の邂逅が日常的に行われているようだ。

入線してきた KTX は前照灯が美しいキセノンライトに変更された他は TGV そのもので、車体表面を平滑にする為のプラグドア (アジアやアメリカでは珍しい) や車内の薄暗い間接照明 (日本を含む東アジアでは明るい直接照明が好まれる) も欧州式だし、車窓から見える 信号境界標識のデザイン* もフランス本国の TGV と同じ、韓国語の案内放送や駅到着時の民族音楽がなければ「ここはどこ?」だ。終点釜山からジェットフォイル JR九州のビートル* と韓国の未来高速社のコビーの共同運航) で約3時間対馬海峡をひとっ走りすればもう博多だ。早朝ソウルを出れば仏 TGV と日本の新幹線を同日に乗り比べる事ができる時代になった訳だ。



左:大ユーラシアのTGV最西端駅、ロンドン・セントパンクラス駅 右:同最東端駅、釜山駅。
13 ユーラシア横断特急の夢

フランスがKTXを落札した意義は単に韓国の超高速鉄道市場を制しただけに留まらない。既にユーラシア大陸における超高速鉄道市場の西端であるロンドンまで延びるユーロスター 前号* 参照) もフランス規格で押さえている為、広大なユーラシア大陸の東西の両端をTGVが確保した事をも意味する。鉄道は規格商品なだけに、将来ユーラシア横断鉄道高規格化の際は両端を押さえたフランス規格はその中間の路線でも事実上優位に立つ可能性もある (但し北京・天津間はドイツの ICE3 を輸入し、CRH3 として2008年運行開始)

KTXが中国やロシアに出る為にはどうしても北朝鮮を通過しなければならないが、韓国では日本で考えられている以上に南北統一は現実的 (註48) なものと受け止められているようだ。ソウル駅周辺や都羅山駅 (後述) では北朝鮮経由のユーラシア横断鉄道建設の巨大看板が掲げられ、KTX導入前の韓国の看板列車だったセマウル号と思しき絵も描かれている。

現にソウルから38度線に向かって延びる京義線 (註49) を南北国境で再び繋ぐ南北合意が2000年になされ、2007年から国境の北側に造られた開城工業団地への南北貨物輸送 (註50) が本当に始まった。京義線の全線電化工事も始まり、沿線の住宅開発が進み、国境付近の都羅山駅のちょっとした地方空港的な新駅舎には「ソウル方面」に加えて「平壌方面」の標識まで設置済だ。だが統一ムード溢れる都羅山駅を一歩出ると写真撮影は厳禁、鉄条網や車止めの放列が分断時代のベルリンのチェックポイントチャーリーを彷彿とさせる緊張感を漂よわせ、忽ち厳しい現実に引き戻される。

 
(註48) 分断国家時代の西ドイツは有事に備えて首都を東独国境から遠く離れたボンに置いたが、同じく分断国家の韓国は、首都を国境から離れた例えば釜山ではなく、敢えて38度線から目と鼻の先のソウルに置いている。これは北朝鮮の脅威は日本の脅威よりは低いという判断があるのかも知れないと、秀吉軍と戦い今も日本の方角を睨む李舜臣像を見ていて、ふと思った。
(註49) 日露戦争の軍需物資と兵員輸送の為に日本が建設した幹線で、戦前は釜山と満州を結ぶ「ひかり」「のぞみ」等聞き覚えのある名前の大陸連絡急行もここを走ったが、南北分断以降永らく単線非電化だった。
(註50) 但し報道によると2007年12月11日の運行開始から2008年4月末までの4ヶ月半に実際に貨物を運んだ日は僅か11日だったというので、現段階では政治的シンボルとしての位置付けなのだろう。


左:都羅山駅の「平壌方面のりば」の標識 中:セマウル号が停まる同駅ホーム
には「←平壌205km ソウル56km→」と書かれている。右:南を睨む李舜臣像

冷戦時代のドイツは、もし第三次大戦が勃発すれば最前線となる危険があった。筆者が幼少時通っていたハンブルグのギムナジウムで、Heimatkunde (郷土史) の学期最後の授業で担任は言った。「諸君、ロシア人は既に60㌔先まで来ている。」東西ドイツ国境から僅か60㌔の危険地帯に住む緊張が、担任の厳しい表情に出ていた。それから約20年、1990年10月3日ドイツは平和裏に再統一され、新装なったベルリン中央駅 第27話* 参照) 他旧東独各地に旧西独からICEが直通する。冷戦当時、誰がこの光景を予想できただろうか。朝鮮半島にも同様に流血無き平和が訪れないと誰が言えよう。ロシアは (朝鮮半島の東海岸ルートで) シベリア鉄道の釜山直通への手始めにまず北朝鮮の羅津までの工事に着手したと報道された。現在KTXは京義線にも乗り入れソウル北方約15㌔の幸信駅で止まっているが、TGV方式でもICE方式でも何でもいい、列車が平和に直通してユーラシアの広大な大陸を疾駆する姿を見たい。

14 アメリカ Acela

ユーラシア以外に目を転じると、KTX開通の4年前、アルストム社は北米市場に楔を打ち込む事に成功した。米国では珍しく鉄道による都市間高速輸送の需要の高い北東回廊 (ワシントンDC~ニューヨーク~ボストン) では1969年に時速200㌔を出す電車方式のメトロライナーが営業開始したが故障が頻発、80年代から寒冷地に強いスウェーデンの電気機関車 Rc-4* のライセンス機 EMD AEM-7*が牽引する客車列車に置き換えられた 第2話* 参照)。20世紀末にはこれも陳腐化した為、米国旅客鉄道公社 AMTRAK は独 ICE ・仏 TGV ・瑞 X2000 各1編成 (残念ながら日本の新幹線にはお呼びがかからなかった) を実際に米国に運んで テスト* した結果、TGVベースのライセンス列車での置換が決まった。



北の終着ボストン駅に佇む Acela。所変われば品変わるとは良く言ったもので、
このアメリカナイズされた大味な顔から TGV の面影を探すのは容易ではない。
丸のレタスを無造作に3分の1に切っただけの車内のランチも負けずに大味だった。

Acela Express* と名付けられたこの列車は、両端のTGV型機関車が客車を挟む方式は同じだが、客車はTGV式の連接客車ではなく 一般的な4軸ボギー客車* で、米国式に客室窓は横に細長く、大西洋岸を走る為塩害対策でステンレス車体だ。結局TGVの遺伝子を残す箇所は機関車だけ、その機関車もデザインは激しくローカライズされ米国式の大味なお顔となった。軌道改良の予算が渋く最高時速240㌔を発揮できる区間は短く (JRの在来線特急並の速度で流している事が多い印象だった)、時速300~320㌔で高規格の高速新線をびゅんびゅん飛ばしている欧州ばりに高出力機関車が2両も必要なのか首を捻ってしまう。



見慣れぬ塗り分け以外はJR東海の700系そのものだが、左の写真の「板橋」を「いたばし」 ではなく
「バンチャオ」と読む所が、ここが700系の祖国・日本では無い事を雄弁に物語る。
空港に近い桃園から台北まで19分乗車しただけで、じっくり観察できなかったのが残念だ。
15 台湾 700T

時速300㌔級ではドイツと (まだ輸出には熱心でないにせよ) 日本、200㌔台級ではスウェーデン、カナダ、イタリア等の強豪を相手に競り勝たなければならないので、レール式鉄道世界最速記録 第28話* 参照) を持つ TGV といえども常勝将軍とはいかない。台湾新幹線 (2007年開業、台北・高雄間、最高時速300㌔) では大量の旅客の高密度運転という発注者の厳しい条件を満たす為総2階建の TGV Duplex 客車をドイツ製強力機関車2両で挟むという 奇策* に打って出、この俄か独仏 ヨーロッパ連合 (註51) は仮契約まで持ち込んだが、大定員列車の高密度運転は正に日本の新幹線の得意とするところで、最終的に受注したのは日本連合だった。ヨーロッパ連合からすれば台灣高鐵のちゃぶ台返しに遭った形だが、日本としてはこれが記念すべき 新幹線輸出第1号(註52) となった。形式名は台灣高鐵の最初のシリーズにもかかわらず700T系を名乗る。これは文字通りJR東海・西日本「700」系の「T」aiwan版という、日本色の強い命名だ。車両は日本規格で統一されているが (大陸中国の新幹線では車両規格も日本・ドイツ・カナダが混在している)、信号方式は欧州式とする等、他のシステムは日欧が混在している。

 
(註51) 欧州の宿敵同士が欧州外ではさっと一致団結するこのパターンはどこかで見た光景だ。植民地獲得合戦で張り合っていた英仏が清国攻略時は仲良く手を握ったアヘン戦争を連想してしまったのは筆者だけだろうか。
(註52) 今号は回顧談が多くて恐縮だが、ドイツの現地校に通っていた1970年前後は日本車を見かける事など殆どなかった。「おいミキート(なぜかそう呼ばれていた)、お前の国の車が来たぞ」と言われて道を見ると、ヒッピー風の男が運転する豆粒のようなホンダS500がけたたましい騒音と排ガスの雲を従えてやってきて腹をかかえて大笑いされ、子供心にも屈辱に震えた。日本製高級車や高速鉄道車両の海外での活躍の記事を読んで溜飲が下がるのはその頃の刷り込みがあるからかもしれない。


700T系の車内にさりげなく作り込まれた欧州の哲学

700T系は祖国の700系をベースに性能を向上 (営業最高時速270→300キロ) させただけでなく、一部の窓は備え付けのハンマーで破壊して脱出できる構造になっている等、日本では見かけない高度な安全規格となっている(写真上・左)。火災時にデッキが人で塞がっている場合に極めて有効なこの脱出方式は欧州では一般的で、日本の700Tも一旦はTGVやICEという欧州規格と張り合った為に安全規格を欧州並に引き上げたと見た。また、全線乗車してもせいぜい1時間半の乗車時間なのにラゲッジコーナーが設置されているのも、長距離列車には必ずラゲッジコーナーを設ける欧州のライバルを意識した事が強く窺われる(写真上・右)




写真は現地運転士に「Shinkansen 700T」の運転訓練を行うDBのドイツ人運転士の
紹介記事(DBの車内誌「mobil」2007年7月号56頁冒頭部分をスキャン、多少スペース圧縮)

16 高速鉄道市場の拡大は続く

超高速鉄道の市場は拡大している。長期的なエネルギー逼迫も、航空機や自動車からエネルギー効率のより良い鉄道へのモーダルシフトの追風になるかもしれない。アフリカでもタンジール~カサブランカ間を最高時速320㌔で結ぶモロッコ新幹線プロジェクトでも仏アルストム社が TGV を受注と報じられた。他にも米国サンフランシスコ・ロスアンジェルス間、アルゼンチンのブエノスアイレス・ロザリオ間、豪州メルボルン・シドニー間* の高速鉄道計画でも TGV 方式が有力という。三雄中一頭抜きん出て五大陸八面六臂の大活躍だ。反面、今後は TGV のお膝元・SNCF も、これまで事実上アルストム社が独占してきた超高速鉄道の 調達先を自由化 (註53) すると報道された。日本メーカーが競り勝てば SNCF のロゴを張った N700(かその後裔)TGV とパリ北駅で鼻先を並べるシーンもあり得るという事だ。

 
(註53) 日本も応札するからには国内の新幹線建設に欧州勢がTGVやICEをひっさげて応札する事は当然認めなければならないだろう。


上海・浦東界隈は中国の経済発展を視覚的に雄弁に象徴する一角だ。東方明珠電視塔の夜景(右)は
未来都市のようだし、黄浦江の川底をくぐって外灘と陸家嘴を結ぶ外灘観光隧道(左)の光の演出も見事だ。


17 手強い伏兵:中国四千年の交渉力

広大な国土に13億の人口を擁し21世紀前半の世界の工場として発展する中国は超高速鉄道の最重要市場でもある。国産の 中華之星* の成績が芳しくなかった為外国の技術導入に方針転換し、中国鉄路高速 CRH (China Railway High speed) として日欧の技術の導入を開始した。このうち CRH2*CRH3* は、それぞれ JR東日本 E2系*・ドイツの ICE3 第11話* 参照) だ。返す刀でドイツの磁気浮上式リニア 「トランスラピッド」第1話* 参照) まで導入した。

日独仏が三つ巴で天下を争う構造に強力なライバルが急浮上している (これら三者が作ってしまったとも言える)。三国志が演じられている舞台の幕のすぐ裏側で出番を待つのは、他ならぬ中国だ。日本車が世界を席巻しトヨタが自動車生産世界一の座を窺うなど1960年代の欧米人の大半は夢想だにしなかったろうが、現実は見ての通りだ。今、高速鉄道市場でも同じ事が起ころうとしている。但し日本は今度は追われる側で、追うのは中国だ。超高速鉄道は車両・軌道・信号システム全体にわたって永年の試行錯誤に基づく特許とノウハウの塊であり、本来一朝一夕に作れるものではない。しかし、13億の市場を背景にした中国式超交渉術がこれを可能にしつつある。



左:北京西駅 右:東北新幹線「はやて」の新塗色ではない。同駅構内の CRH2 和諧号の広告である。

報道や Wikipedia によれば、中国は契約の条件として日欧全ての鉄道会社に技術の「完全な開示」を要求し、完成品の輸入は僅かに留め、他は全て現地生産し製造ノウハウを習得した。問題は「外国との共同開発であって全ての 知的財産権は中国にある (註54) 」と呼号している事の 意味 (註55) だ。契約内容は非公開なので断片的報道から推測するしかないが、中国国内での独占的実施権を与えたのを誇大に表現しただけなら実害はないが、中国に知財があると本気で主張されたら将来の巨額のライセンス料支払は危機に瀕する。また中国が超高速鉄道を輸出できる時期がくれば if ではなく when の問題だ) ライセンスを中国国内に限定した積もりでも、「知的財産権は中国にあるから第三国への輸出にライセンスは不要」と主張された日には、ライセンス料は入らない上に人件費の安い中国製に日欧は価格競争で敗退、第三国市場も失うという目も当てられない展開になる虞がある。TGV が中国という巨大市場に手を出していないのは、或いはこの辺りの事情が関係するのかもしれない。

 
(註54) 日本も技術立国になった今日こそプロパテントに宗旨替えしているが、発展途上国時代は知財保護に冷淡で、先進国にコピーだの模倣だのと叩かれていたが、先進国から導入した先端技術を自国市場用に僅かに手を加えたものを共同開発と称したり、ましてや全ての知的財産権は日本にあると言い放つまでの度胸はなかった。
(註55) Wikipediaによると「もし事故が起きた場合の完全な補償」を要求する条項まであるそうだが、もし外国の技術に依存していないなら不必要な条項であり、語るに落ちた観がある。


京滬高速鉄道という高速新線の建設が始まった北京・上海間は現在
在来線をJR東日本「はやて」ベースのCRH2が結ぶ。ネクタイ姿の
乗客も多いCRH2と、内陸からの出稼ぎ列車とは客層が明らかに異なる。

中国の脅威その2は「遺伝子組み換え」により技術そのものが本家を凌駕してしまう可能性だ。日独仏それぞれに長所・短所を有しており、ライバルの長所の技術的ポイントはわからない事もあれば、わかってもライセンスを得なければ使えない。しかし中国は世界の鉄道先進各国から鉄道技術を導入(註56) し、鉄道先進各国の技術の長所のみを組み合わせる事により「本家」ICE・新幹線等より優れたものを作る可能性がある。事実、中国が国威をかけた北京五輪に合わせて開業した北京・天津間の高速列車CRH2改・CRH3はそれぞれJR東日本E2系・独 ICE3 をベースにしつつも営業最高速は「本家」を上回る350㌔だ。国威発揚という電圧の高い目標の為に無理をして設計最高速度の限界に近い運転をしているのでなければ良いが、他にも高速鉄道先進各国の規格の混在や、高速鉄道運行の歴史の浅さも問題点として指摘されている。

 
(註56) 中国高速鉄道CRHの初代CRH1型はカナダ、CRH2はJR東日本の新幹線E2系、CRH3はドイツのICE3、CRH5はフランス・アルストム社(但しTGVではなく旧FIATのペンドリーノ)という具合で、各国最先端の高速鉄道技術がこれだけ1国に集中している例は他に無い。


和諧号のパンタの背後に「創建和諧社会」の標語が掲出されているのが見える

中国の CRH1 以降の高速列車は皆「和諧号」を名乗る。「和諧社会」は調和の取れた社会の意味だというので、調和が国家目標になる程の不調和があると見る事もできる。事実、上海等沿岸部と内陸部の経済発展格差が大きいのは周知の事実で、内陸から到着した列車から出てくる出稼ぎ労働者達と上海のスタバで寛いでいる若者から受ける印象の落差は大きい。もし「世界最高速鉄道の自主開発」の喧伝 (註57) が21世紀の今日では珍しい一党独裁政権の赫々たる成果を宣伝し社会不安を抑える道具として有益なら、方針転換は望み薄だろう。

ドイツ本国で予算が付かず、磁気浮上式超高速リニアの実績作りに躍起になっていたドイツ虎の子のハイテク製品、トランスラピッドTR08を簿価同然で買ったという上海トランスラピッドも、中国は共同開発 (註58)と称している。更に、中国はデジタル家電の外国メーカーに最大の企業秘密であるコンピューターのソースコードの開示を要求し、これをしないと2009年から中国市場での販売を認めないと報道された。人口13億の巨大な成長市場を取るか虎の子の先端技術を丸裸で晒すかの二者択一 (註59) を迫るこれらの強烈な交渉方法は皆似通っている。中国のような一党独裁の国ではこれらは偶然の一致ではないと考えるべきだろう。

 
(註57) 現地報道には「鉄道部門が全面的に展開してきた自主創造新戦略が勝ち得た重大な成果であるとともに、中国の鉄道車両製造技術が世界の最先端の水準に達している証である」等の刺激的な表現が見られる。契約にも「外国製である事を積極的に宣伝してはならない」位の条項があるのかもしれない。
(註58) 色が変わり3両編成が5両編成になったが、逆立ちして見てもドイツのトランスラピッドTR08そのものである。技術的に完成していながら高価格と既存鉄道との互換性の無さから欧州でなかなか買い手がつかず実用化の機会を血眼で捜していたドイツにとって、初の顧客になった中国へのトランスラピッド売込は巨大市場・中国を印象付けるディールとなった。
(註59) このような極めて困難な選択をドイツではQual der Wahlという。


世界には色々な政治体制や考え方の国がある。洒落た服を着た若者がスタバで寛いでいても、
一党独裁の国でビジネスを行う慎重さは常に必要だ。右2葉は上海の地下鉄の切符売場の
「軍人優先」の張紙と、発車する列車のドア脇で軍隊式に最敬礼を続ける車掌

日独仏の鉄道3強の技術力はほぼ拮抗していると思われるので、知財流出を警戒して輸出に慎重になっても1社でも巨大市場の魅力に抗し切れずゆるい条件で供与してしまえば尻抜けになってしまう。かといって3国の輸出メーカーがスクラムを組んで技術移転を拒めば、今度は2008年8月に施行されたばかりの反壟断法 (独占禁止法) で刺されかねない。もはや民間企業の対応には限界 (註60) がある。

TGV の技術を習得した韓国も、2009年登場予定の第2世代(最高時速350㌔)に続き、第3世代 (同400㌔) も輸出を視野に入れて開発中だという。これらごく近未来のライバル達を過小評価してはならない。

 
(註60) 海賊版の横行に業を煮やした米国は2007年に中国をWTOに提訴したのに対して、中国の版権局長は「高額のライセンス料を要求する米国にも共同責任がある」と反論したというから、役者が違う。


今やTGVは、イギリス(左・おじいさん、そんなに睨まないで…)
・韓国(中)、・アメリカ(右)もカバーし、世界中を駆け回る。
18 結語

日本の戦国時代や幕末、中国の三国時代のように、歴史で一番面白いのは群雄のアドレナリン全開となる動乱期だ。鉄道の世界でも超高速列車の豪傑どもが、それぞれに武を練り、男を磨きつつ、そして「伏兵」に刺されぬよう注意しながら、「超高速鉄道三国志」を世界規模で益々面白くしてくれる事を期待しよう。

次号第31話では、大 TGV 帝国の広大な版図の最西端・英国の山中で動態保存されている、明治期の麗しい2階建トラムについてリポートする。

 
(2008年11月)
 
 
 
     
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資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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