Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint z.Zt. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
32. ワイコロアの「ねじ式」トラムに見る米国式シュールレアリズム
今回の取材地:
アメリカ
日本
フランス


カフェに闖入するトラム
 
1. 非日常性演出度抜群のトラム

源頼朝が石橋山で平家軍に敗北後千葉で再起するまで身を隠したと伝えられる 仁右衛門島*対岸の太海* 一帯は、歴史のヒーローが危難を避けて露命を繋いだ秘境的雰囲気を今も残し、後者はつげ義春の代表作 「ねじ式」 の舞台ともなった。子供の頃読んだこの作品の不気味さは現在も脳細胞のどこかの片隅にこびりついている。つげ作品は「夢」の描写がうまい。夢の中では時代も場所も脈絡無く連続し、高校の頃の夢を見ていたかと思うと教室の中に死んだ祖父が何気なくいたり、次には現代に戻ったり中世にいたりと、正気なら異常に感じる唐突な展開を夢の中の登場人物は (自分を含め) 誰も気に留めない。「ねじ式」 でも太海の路地や民家の中に唐突に蒸気機関車が現れるが、誰も気にしない。



ホテルのロビーの真中に電車が…船が…。だが手前の子供は気にも留めない。
 このような「ねじ式」的に唐突な非現実感を楽しめる乗物がハワイ島北西隅ワイコロア Waikoloa 地区にある。もとより米国領だが、余りに面白いのでトラムがスイス製である点を捉えて本連載で取り上げる。左上の写真奥・左下の写真手前は、ソファーが点在するホテルの普通のロビーだ。ロビーの中を電車が走り、船が接岸するシュールさは正に 「ねじ式」 の世界だ。訪れたのが昼間だったので外光が射し込み違和感が減殺されるが、室内灯に照らされる夜間にもう一度訪れてソファーも入れて撮影すれば、部屋の中を電車が横切る意外感をより強調した絵が撮れたのに、と戻ってから気付いた。


フロント駅を正面玄関ロビー側 (左) と船着場側 (右) から俯瞰

熱帯林や建物の中を大蛇のようにぬるぬると通り抜けていく5両編成の細長い列車は、Hilton Waikoloa Village の25万㎡という広大な敷地内に点在する宿泊棟やレストランを結ぶ交通機関なのだ。通り抜け不可のコンパートメント毎にドアがある一昔前の英国の客車のような構造の車内は、着席輸送とプライバシーを重視する欧州のDNAが濃厚だ (この車両サイズと輸送量では、日本なら詰込のきくロングシートにして2両は減車しただろう)



パレスタワー駅の交通美の競演。トラムは同駅から先は単線になる。

トラムとほぼ平行してボートも走り、多くの船着場はトラムの駅と近接して設置され客は気分と用途に応じて選択できる (船の方が眺めはいいが大きな荷物がある時はトラムが便利だ) が、この船も只者ではない。アメリカ人の好むマホガニー材をふんだんに奢り、高級車のようなゆったりした白いシートに身を沈め、椰子の木漏れ日で斑になりながらジャングルを擬した水路を進む楽しさは「ねじ式」トラムに負けない非日常性の演出度抜群だ。トラムも船も宿泊客でなくても無料なので、ホテルの駐車代さえ払えば乗り放題だ。この駐車代とてホテルで確か20ドルだかを使えば一定時間無料になる (2008年) ので、中でランチでも取ればそれで done だ。

乗物だけではない。辺りを見回せば人工の瀑布が轟き、ボートが行き交う人工河川には極彩色の熱帯魚が回遊し、岸辺の緑地には南国の鳥が羽を休め、ロビーには巨大な中国の壷が鎮座し、イマーリ (伊万里?) と称する禅庭園があるかと思えば船ルートの東の終着・Boat Landing Pavilion はタイ風建築という具合で、アメリカ人の考えるエキゾティズムてんこ盛り、つまりリゾート丸ごと非日常、がコンセプトなのだ。そもそもリゾート客は非日常を求めて来るのだから直球勝負で行こうという訳だ。Surreal feel* を感じたと宿泊客にも言わしめたこの人工楽園は、建設前は一面溶岩だったというのだから恐れ入る。



水辺のプロムナードに不意に出没し、ソファーの傍らを何気に通過するトラム。(ラグーンタワー駅付近)

非日常性に大きくふった建造物としては、夢見る白鳥王・ルートヴィッヒ2世 第2324話参照) が建てたノイシュヴァーンシュタイン Neuschwanstein (新白鳥石)* が世界的に有名だ。この非実用的な超美城はそのドイツ離れしたデザインが今日ではドイツ観光のイメージリーダーになっているのみならず、ディズニーの シンデレラ城* のモデルにもなったが、アメリカにおける非日常性の表現としてはメランコリックなつげ義春的、というより、このディズニー的という表現こそ相応しい。このトラムや宿について検索してみたら案の定 Disney-ish というコメントが次々と出てきた。更に、同ホテルのHPによればボートシステムの設計を行ったのは (船体メーカーではなく) 正にそのディズニー社だという。これは新白鳥石城の基本設計を (建築家ではなく) 舞台芸術家が担当した 第23話参照) のと平仄が合う。つまりこのワイコロアのホテルは、「非日常」に軸足を置いた点で新白鳥石城と時空を超えて志を同じくし、その意味でホテルというより宿泊施設付テーマパークを志向しているのだろう。



左の写真右端の線路際の長い棒が第三軌条で、ここから電車に給電する。警告文満載の
可動ゲートが、ここが日本唯一の特異点である事を象徴する。「銀座線踏切」と
奇をてらったとしか思えない看板まで大書するとは、東京メトロもおちゃめだ。

2. 非日常性演出の為の技術的工夫

採算を考えなければならない民間企業 (註1) の身では、バイエルン王国の国家財政の破綻をも顧みず造られた新白鳥石城を贅美さはで凌駕する事はできないが、ハイテクを駆使した夢の演出という点では1世紀分の技術の進歩が光る。トラムでそれが一番現れているのは集電方式における安全性と美観維持の両立への工夫だ。通常の架線を張れば美観を害する。かといって人膝の高さに3本目のレールを敷設して電流を流してそこから集電する第三軌条方式第10話参照) を子供が走り回るリゾートで採用する訳にはいかない。日本で第三軌条方式の鉄道が道路と平面交差する唯一の箇所は東京地下鉄銀座線 (こちらは美観目的では無くトンネル断面小型化の為の第三軌条だが) の上野検車区付近だが、踏切の道路側の遮断機が上がっている間は人が線路に立ち入って感電しないよう、ギロチン形ゲートで線路の方を閉鎖してしまうものものしさだ。

 
(註1) 超ユニークな巨大施設を最初に建設した会社は投下資本回収に苦労し、合理的価格で譲り受けた次の買主の下でやっと経営が安定する例をしばしば聞くが、ここでも360億ドルを投じたというこの施設を建設したハイアットは撤退している。
 


(上左・下) 架線の無い踏切を電車が通過する異様な光景が、余りに自然体なので異様に見えない。
写真はシャモニー
Chamonix 行Z800 形モンブラン急行 Mont Blanc Express
(上右) 第三軌条の断面を間近に横切る
Argentière 駅構内踏切

自己責任概念の浸透している欧州では平面交差を伴う第三軌条の例は意外とある (さすがに少ないが)。英国の都市近郊電化区間では珍しくなく、2007年までは天下のユーロスター 第29話参照) すらパンタを降ろして第三軌条区間に乗り入れていた。上の写真はフランス版 「白い山」 (ワイコロアの東に聳えるマウナ・ケア Mauna Kea もハワイ語で 「白い山」 の由) モン・ブラン Mont Blanc の麓の山岳路線の例で、第三軌条方式の電車 (ディーゼルカーではない) が道路と平面交差する場面 (上左・下) と、高圧電流が流れる第三軌条の断面を間近に見ながら線路を横切るアルジャンティエール Argentièr 駅構内の歩行者用踏切 (上右) だ。良く見ると危険 Danger! の文字と髑髏マークが書いてあるが、それだけだ。状況が同じ筈の銀座線踏切のものものしさと比べ、拍子抜けする程自然体だ。



左:分岐と集電の構造が良くわかる。中央のスリットから集電器を挿入してスノコの下の架線から集電すると思われる。
右:車庫への引込線は人通りの多い廊下(写真手前10時-4時の方向)を横切るが、ここはスリットが塞がれている。

仏ボルドーBordeaux旧市街の歴史景観地区ではアルストム社が開発した地表集電 Alimentation par Sol (APS) システム* が実用化された。これは2本のレールの間に、定間隔で絶縁区間を設けた給電レールを設置し、電車の移動に合わせ車体直下の導体区間のみ次々と加圧するハイテク技術で、電車がいない時に歩行者が地表に露出する給電レールを踏んでも無加圧なので感電しない由だ。こういう (文字通り) 目に見えない努力を傾注する辺り、如何にも都市景観に敏感で電線の地中化を古くから推進してきた欧州らしい。
これと比べると線渠方式と呼ばれるワイコロアの集電方法は、レールの間に掘った溝の中に電線を設置しその上をスノコで蓋をした素朴な構造で目的を達成している。昔ロンドン等で試みられたこの線渠方式が普及しなかったのは溝の中の電線が雨水や泥の流入でショートしない為の保守作業が大変だった為だが、 (冬の関東平野のように) 湿った風がマウナ・ケア (註2) 等の巨山に遮られる為年間降雨量僅か 250mm という高い晴天率に恵まれたワイコロア地区に限っては、この懸念は無用なのだろう。

 
(註2) 富士山より高い標高4203mはハワイ最高、海洋底から計測した10203mは地球最高といい、明瞭な夜空の得られる頂上付近は天文台銀座で、すばる天文台もここにある。尚、太陽系の最高峰は周囲からの高さ約27000mの火星のオリンポス山(第20話冒頭部参照)だ。
 


ボートは方向転換用にループ状に敷かれた水中軌道にガイドされ、終着・
船着小屋Boat Landing Pavilion駅に接近(左)・進入(中)・発車(右)する。

船もトラム同様バイトの学生のような若者が操舵しているのだが、狭い水路での離合も接岸も、熟練した船頭並にこなす。不思議に思って良く見ると、水の底に軌道のようなものが見え、船は忠実にその上を走っている。海原電鉄第25話参照) は言い過ぎにしても、鉄輪やゴムタイヤの代わりに水の浮力を用い、車体が船の形をした「案内軌道式水上トラム」と形容してもそう外れてはいまい。
船着小屋
Boat Landing Pavilion 駅は臨水レストランとなっており眼前に船が発着する。船はバッテリー駆動 (註3) なのでディーゼルエンジンの騒音も排ガスもなく、スクリューが清水を掻き混ぜる涼やかな音と、食卓の上まで降りてくる雀君達の囀り声だけがBGMだ。船着小屋付近の水中軌道案内式ならではの狭い水路に船が「入線」してくる様子は鉄道駅を連想させ、水辺にいながら駅のホームで食事をしているような錯覚に陥る。

 
(註3) バッテリー船の老舗は、氷河の後退でできた為高山に囲まれた南独 ケーニッヒ湖 Konigssee の観光船で、山肌にエンジン音が反響して静謐さを損なわないよう、何と1909年以来電気モーターで粛々と走っている。
 


左:車体下部には円形の空気吹出口がずらりと並ぶ。 
右:駅の停車位置では、丁度吹出口の位置が円形に変色している。

軌道の話をしながらいつも脱線するのだが、西に水の浮力を用いた軌道があれば、東には空気の浮力を用いた軌道があるのをご存知だろうか。成田空港第2ターミナルとサテライトを結ぶ黄色いシャトルがそれで、ホーバークラフトの原理を応用して空気で僅かに浮かせた車体を側面のケーブルで牽引する変り種だ (耳をすませば 「シュ~プシュシュシュシュシュシュ・・」 という怪しい音が聞こえる)。無難にふった乗物が多い日本で (なぜ普通のゴムタイヤでは駄目なのかと言われればそれまでなのに) こんな下駄のような乗物に超ユニークな技術がさり気なく使われているのが、何とも嬉しい。ハイテク日本の面目躍如と言いたいところだが、残念ながら Wikipedia によるとこれは米 OTIS 社の技術だという。しかし折角のハイテクに誰も気付かないアピール力の弱さ (良く言えば understatement はとても日本的だ。



左:一部の悪路での事故は保険適用外なので注意。 
中:客を待ち構えるパイロット。   右:同色のヘリの大群はベトナム戦争の映画を連想させる。

3. ハワイの面白乗物駆足チェック

本編でハワイを取り上げる事はもう無いだろうから、ハワイの面白乗物を数日知見した限度でご紹介する。ハワイ島は随所に溶岩大地の月面のような光景が広がり、カローラを転がしているだけで十分楽しい。アメリカは軽飛行機やヘリコプターを用いた安価な航空観光も普及しているが、3D感覚 (第21話参照) を楽しむならヘリだ。同一形式のヘリが次々と離発着する様子は軍隊のようだ。但し火山活動は沈静化しており灼熱色に熾った溶岩流が大地を這っていく光景を期待すると失望するので、空中散歩を楽しむだけの積もりで参加すると良い。



飛行機のみならず、艀の上の飛行場も隣接する結婚式場も、水上に浮いている。

ハワイは初見参だったので、往路ホノルルでの乗換に半日弱の時間差を設けた。乗物愛好家兼 (鉄道コラムを書くのに頼朝から始めないと気がすまない) 歴史愛好家としてオアフ島で半日あれば何をするか、答えは自ずとあった。まず、筆者は乗物フリークとして迂闊にも水上機に乗った事がなかった。ごつい雪上車 第26話参照) の乗心地が意外に良いのとは逆に、双フロート型水上機 (接水面積の多い飛行艇の乗り心地はもっとワイルドだろう) の滑水時は僅かな波でもガンガン揺れ、水の硬さを実感する。Island Seaplane Service, Inc.社*の遊覧コースには大フライトと小フライトがあるが、お勧めは前者だ。ワイキキビーチ→ダイヤモンドヘッド→ジュラシックパークのロケ地となったU字峡谷と進み、最後は1941年12月8日に日本軍の戦闘爆撃機354機が空を圧して通過したコースを辿って真珠湾に単機、直進する。日本軍が空路侵入した地点の海岸には巨大なレーダー基地が睨みをきかせ、アメリカ人が観光客を迎える笑顔とは別の厳しい表情を見せている。機は真珠湾上空から沈船を眺めた後、翼を大きく旋回させて着水する。



 左:ダイヤモンド・ヘッドを望む飛行場。  中:ジュラシックパークのロケ地。
右:くたびれた機体と単発エンジンの前方に軍艦が遊弋する真珠湾が見えてきた。
攻撃に参加したパイロット達は68年前ほぼ同じ景色を死の恐怖と隣合わせで見た筈だ。

真珠湾攻撃で沈没したアリゾナ USS Arizona の艦橋があった辺りの海面上に被害者を悼む アリゾナ・メモリアル* (写真左・左下) が建設され、聖地のようになっている。撃沈後70年近くを経た今日も海底の機関室から浮上するオイルが流血のように海面を漂う。海底に眠るアリゾナの 鼻先の海上* に仇をとったぞとばかりに係留保存されているのが大艦巨砲主義時代の古豪、戦艦ミズーリ USS Missouri (註4) だ。同艦デッキ前方右舷には「1945年9月2日、当時北緯35度21分17秒・東経139度45分36秒の東京湾に投錨中の本艦に於て連合国軍に対する日本の正式降伏文書が調印され、ここに第2次世界大戦は終結した。」との銘があり、その隣には当時の重光葵外相や勝者を代表したマッカーサー元帥らの署名のある無条件降伏文書の写しと、この歴史的文書の署名に使われたペンが展示されている。

 
(註4) 朝鮮戦争にも従軍した同艦は、湾岸戦争で硫黄島・沖縄・東京・室蘭・日立等を襲ったのと同じ40.6cm主砲で砂漠上のイラク軍を洋上から撃ち白ませたのを最後に、半世紀にわたる戦歴を閉じ1992年に退役した。
 


左:メモリアル(左下)の海底に横たわるアリゾナから今も流出する油膜の傍らに係留されたミズーリ(右上)。
中・右:戦艦ミズーリの甲板に残された現代史の重い1頁。

次号第33話では広島で活躍するドイツのトラムと被爆電車をご紹介する。

 
(2009年5月)
 
 
 
     
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