Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint z.Zt. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
34.市場のある光景

- タイ国鉄メークローン線名物・線路上折り畳み市場 –
Der Markt auf den Gleisen
今回の取材地: タイ

まずは市場の中を日本製ディーゼルカーが強引に通過していくこの写真 (註1) をご覧戴きたい。左右に写っている人々の手は線路上を覆っていたテントの支柱を支えており、列車が通れるようテントを折り畳んでいるのだ。列車通過後支柱を線路に向けて倒すと、線路上は再びテントで覆われる。列車は市場の中ぎりぎりのスペースを徐行しながら通過する。

(註1) 緩いカーブの手前から接近する列車を望遠レンズで捉えたショットで、軌道内からの撮影ではない。


列車通過と同時に線路はテントで覆われ、去り行く列車はすぐに見えなくなる。
Sobald der Zug durchgefahren ist, senkt sich das Zelt wieder über
die Gleise und verdeckt den Blick auf den sich entfernenden Zug

次は列車通過直後の去り行く列車の様子だ。まだ列車最後部がこんなに近い段階 (通過2~3秒後) で早くもテントが左右から線路を覆いつつあり、屋根張り作業はもう半分済んでいる。列車通過で中断された市の再開作業は実に手際良く、この30秒後には線路は再び暗いテントに覆われ、買物客が行き来する市場に戻る。列車が1日僅か4往復では、市場モードこそがデフォルトという印象だ。

 
1 メークローンの折り畳み市場
 

ここはタイ国鉄メークローン Maeklong 駅付近の通称「折り畳み市場」 (「線路上市場」「鉄道市場」とも) だ。メークローン線はその全長 60km のほぼ中間のターチン川が架橋されていないので同川を境に東線と西線に分かれる。メークローン駅は西線の西端駅だ。



Auf dem horizontal verlaufenden Gässchen sind die Gleise der
Maeklong Linie zu erkennen, die achtmal täglich hier durchfährt.

戦後日本のバラック市とイメージが重なるが、この市場を決定的に有名にしているのが画面左右方向の路地で、買物客だけではなく列車も通るのだ。この土に還ったような色をしたレールは現役で、1編成の日本製気動車 (2両編成) が1日4往復する。



鉄道モードでは1日僅か4往復の超閑散路線だが、市場モードではこのように活気がある。
Der lebhafte Maeklong Markt. Die Gänge befinden sich zwischen den Gleisen.

メークローン駅を出た列車が 33 余キロ離れた西線東端のバンレーム Banlaem まで行って戻ってくるのは2~3時間後なので、列車が市場を通過する模様を車外・車内双方から観察したい場合はこの長い待ち時間を利用してダムヌン・サドゥアック Damnoen Saduak の水上マーケット (車で約15分) 見物と組み合わせるよう事前にアレンジしておくと良い。最近は観光ツアーもあると聞くが、バンコクから車一台を半日借り切っても費用対効果は十分に見合う。



33キロポスト周囲を魚屋が占拠しているのか、魚屋にキロポストが生えているのか…
Oben: 33 km von Banlaem - Der Kilometerstein wirkt wie ein Kunstobjekt des Fischladens

遠くまでテントで覆われた薄暗い市場に足を踏み入れると、とてもそこが定期列車が走る線路の上とは思えない。両側に山盛りの商品の谷間のような歩行路は、レールの間の枕木上に歩き易いよう板を並べ渡したものだ。ナマズがぐるぐるぬるぬる暴れるバケツの傍らに、33キロポストが魚屋のオブジェのように佇む (上)。確かにここは魚屋ではなく線路脇なのだ。商品は野菜が最も多いが、果物・魚介類・日用品類と種類・大小あらゆるものが陳列台に並ぶ。大きな物もあると思ったら、陳列台上で休憩中の店員だった (下)



キャスター付の大型陳列棚は列車通過寸前にさっと両側に引っ込める
構造になっている。営業時間のロスを最小化する生活の知恵だ。
Warenauslagen auf Rädern erleichtern das effiziente
Wegräumen der Waren bei Durchfahrt des Zuges
 大型の陳列棚の下には大小の車輪がついており、タイ国鉄の線路と直角に敷かれたレール上をスライドできるように工夫してあり、列車通過の際は陳列棚が一斉に左右に広がり、列車を辛うじて通すスペースを作る。濃桃色と緑色の果物の陳列棚は右上はレールに接するまでせり出した 「営業モード」、右下は奥に引っ込めた 「列車退避モード」 の様子だ (赤矢印が車輪)。左上:大きい車輪がついている陳列棚はレールを乗り越えないよう、線路との間に止め木が噛まされていた。本稿の末尾から4枚目に貼付してある 動画 の19~21秒時点間に、列車通過直後にキャスター付の陳列棚が引き出される様子が記録されている。


Maeklong liegt an einer Flussmündung ins Meer und ist reich an Meeresprodukten. Die tro-
pische Hitze lässt das Eis schmelzen und setzt den Boden des Eisverkäufers unter Wasser.

山積みで売られている各種魚介類が猛暑の中で腐敗しないように氷屋も大繁盛の様子だった。熱帯の暑さの為、氷屋の占有部分は水浸しだった。カエルも串焼・生共に売られていたが、生蛙は大半が一箇所から内臓がはみ出ており、刺し漁 (猟?) である事が推測された。食材屋だけでなく屋台食堂も多く出店し抗し難く美味な香りが漂っていたが、偶然皿を洗っている場面を目撃し、断念した。



Wenn die Pfeife des Bahnhofspersonals die Ankunft des Zuges ankündigt,
werden mit einem Schlag sämtliche Zelte zusammengeklappt und die
Warenablagen nach rechts und links von den Gleisen weggezogen.

内外の明るさの落差が大き過ぎる写真は外が真白か中が真暗かのいずれかになってしまうが、偶然人通りが絶えた瞬間に日も陰ったので、テントの上と下の様子を一枚に収める事ができた。屋台がレールに沿って両側に綺麗に並んでいるのが分かる。

 
2 折り畳まれる市場
 

駅員の笛の音が微かに響くと、一斉に市場の様子が変わった。営業は直ちに中断だ。



Pfeifend schiebt sich der Zug durch den Markt

台車を引っ込める者、テントを畳む者、無言で迅速な作業がてきぱきと進行すると、それまで暗闇に沈んでいたレールが突如熱帯の太陽に照らし出された。程なく警笛が聞こえてきた。いよいよ列車のお出ましだ。



Auf beiden Seiten des Zuges stützen die Verkäufer die Zeltstangen ab.

「折り畳み市場」 とは良く名付けたもので、列車通過時は線路上のテントは全て折り畳まれる。テントの支柱を無数の店員が軌道両側で一斉に手で支えている様は、緊張感の中にも素足を台上に投げ出して寛いでいる店員もおり (黄色のシャツに赤の襷をかけた後ろ向きの人の尻の辺りに注目) ユーモラスであり、壮観でもある。



Die Verkäufer lassen sich auch von dem herannahenden Zug nicht in ihrem
Geplauder stören. Dies zeigt, dass dies für sie ein alltäglicher Anblick ist..

列車が目前に迫っても談笑している店員もおり、これが日常光景である事がわかる。



1213の車両先頭角には大きな衝突痕も見えるが、この環境では無事故とはいくまい。
Auf der Frontseite des Fahrzeugs sind die Spuren von Zusammenstößen zu
erkennen, ohne Unfälle dürfte es in einem solchen Umfeld nicht abgehen.

暗かった市場が一瞬で太陽の下に晒され、更に無人の道が急開通する唐突さ・異様さは、大袈裟に言えば海に突如道ができたというモーゼの出エジプトをすら連想させる。大いなる力 (?) で開いた道を、満身創痍の2両編成のディーゼルカーが地響きと共に通り抜ける。



列車通過の度に商品にブレーキの鉄粉がふりかけられる。
ここで売られる青果のミネラル分の多さは保証付だ。
Obwohl der Zug so nah am Gemüse vorbeifährt, dass man
meint, er zerquetsche alles, bleiben alle Waren unbeschädigt!

ディーゼルエンジンと車輪のきしむ音を無遠慮に撒き散らしながら、すぐ眼前を列車2両分8軸の車輪が次々と転がっていく。一部の商品はそのまま線路際に放置され、列車がその上を通過する。それでもどの商品も轢かれないのは、車体最底部と軌道との高さがここでは周知の事実だからなのだろう。車内のトイレは垂れ流し式だが、市場通過中に使用する不心得者はさすがにいないようだ。



Sobald der Zug sich entfernt, ist der Markt wieder sofort da.

抗拒不能の 「市の神」 が問答無用で通り抜けると直ちに日常が戻る。去り行く列車の最後尾を撮影しようとしたら、両側からみるみるテントが空を覆い、あっという間に列車も空も隠れてしまい列車の撮影はできなくなった。まるで化学変化のように自然で一斉の環境変化だった。右端の青年の 「さあ、仕事・仕事…」 という呟きが聞こえてきそうだ。



Links: Hier endet der Schienen-Markt. Danach fährt der Zug eine Weile durch Gras.

左・右上は、駅から200m以上 (Google mapsで目測) 続く折り畳み市場がメークローン駅と反対側 (バンコク寄り) で果てる様子だ。長大な 「テントのトンネル」 の出口を塞ぐ日除け布の隙間から、市場の熱気と臭気がゆっくり排出されていた。市場を過ぎると列車は暫く雑草の中を走る (右下)



Die lüftige Songlthaew (Kleintransporter mit einfachen Fahrgastkabinen)
vor dem Maeklong Bahnhof dienen als Kleinbusse und Sammeltaxis

メークローン駅前には、トラックの荷台に簡易客室を設けたソンテウ songthaew 第58話 末尾参照) というミニバスないし乗合タクシーが並んでいた。面白そうだが、英語が通じないので運転系統がわからない。

 
3 車中
 

メークローン線は私鉄が国有化された歴史からか、東線も西線も風変りだ。いずれも他線と一切接続しない孤立した線であるうえ、何と信号機も無い。僅か1編成しか入線していない西線は衝突する相手の列車も無いからまだいいとして、複数の列車が単線を17往復もする東線ではどうやって正面衝突を回避しているのか不思議だ。西線バンレーム行に乗ってみた。



ホーム上まで屋台でぎっしりだったが、線路上に店が並ぶのを見た後なのでもう驚かなかった。
Bis kurz vor der Abfahrt verstellt der Markt dem Zug den Weg zur Abfahrt.
左上:メークローン駅で発車を待つバンレーム行き気動車。右上はその前面中央窓からの前面展望だ。踏切の向こうは遥か先までびっしり市が線路を塞いでおり (下)、今からこの列車がここを掻き分けて通っていくとは信じ難い。汽笛一声、列車は46分遅れで (1日たった4往復の上他線との連絡も無いので、分単位で遅れを計算するのも阿呆らしくなるが) 発車、この一瞬だけ 「鉄道モード」 と化した市場を警笛を鳴らし続けながら徐行しつつ約1分かけて通過した。見ものは最後部窓からの後方景色で、無数のテントが大波のように両側から続々と線路を塞いでいき、列車通過を待ちかねたようにみるみる市場が再現されていく様子は圧巻だ (下の65秒の動画参照)。 この列車に関する限り、後方展望が最も面白い。
 
 

Video aufgenommen aus dem hinteren Wagen des Zuges: Die Gleise
werden durch die rasch wieder aufgebauten Zelte gleich wieder
verdeckt – das Ganze wirkt wie eine riesige chemische Reaktion.

 

一面塩田の単調な景色の中、タタンタ・タタンタ・タタンタ・・とせわしく連続する三拍子のジョイント音は、日欧のロングレールの音に慣れた耳にはエキゾチックに響く。整備不良なのか、エンジン音もおかしい。西線には 1210 + 1213 の2両編成1本が在籍するだけで予備車もなく、また他線との接続の無い孤立した線で代車の入線も不可能な為、オーバーホールは路線の全面運休を意味するので簡単にはできないのだろう。



Der japanische Dieseltriebwagen (Bj. 1985) fährt ohne Verdeck und mit beschädigter Tür und auch
der Motor gibt seltsame Geräusche von sich. Da es keine Ersatzgarnitur gibt und keine Verbindung
zu anderen Linien besteht würde die Überholung des Wagens einen Ausfall des Linie bedeuten.

車銘版には1985年日本車輌製とあり車内には日本で見慣れた造作が多いが、随分と違いもある。まず連結部分には幌が無い (左)。どの駅でも何故かホームと反対側のドアまで開くので、ドアに寄りかかっていたら転げ落ちてしまう。一部のドアは走行中も開いたまま (右) でなかなかワイルドだった。平均時速30キロの低速とはいえ保線状態が悪く時々激しく横揺れする dancing train 状態ので、冗談抜きで危険だ。この夏は山歩きをしていた同僚が滑落して亡くなる事故があったばかりなので、危うきに近寄らずで開いたドアから撮影したいのを我慢した。雨季の降り込み対策なのか、シートはコチコチの FRP 製だった。



鄙の風情が良い途中駅 (上) と車内の僧侶優先席表示 (下)
Unten: Vorzugssitzplätze für buddhistische Priester.

僧侶優先席が用意されているのが敬虔な仏教国らしい。天井の扇風機の回転音は筆者の世代には懐しい。閑散とした西線の終点バンレームとは対照的に、ターチン川を渡し船で渡った東線の西端マハーチャイ Mahachai 駅は 「いきなり市場の中に列車が突っ込んだ感覚」 というネット評もある位、大アーケードの中で増殖した市場と鉄道施設が渾然一体となっているというが、ここで時間切れとなり後ろ髪を引かれる思いでバンレームから車でバンコクに戻った。

 
4 2016年追補
 

西線は軌道の老朽化が深刻になり、雨季の軌道水没 (レールが冠水して見えない状態でも水を蹴立てて走る写真を見た事がある) の頻度も増え、遂に2015年5月13日からほぼ1年運休してリフレッシュ工事が行われた。2016年4月1日より運行が再開されたが、ターチン川の架橋は行われず、東線とは分断されたままだ。



上:駅の周辺もホーム上も至る所に屋台がある。下:1面1線しか無いウォン・ウィアン・
ヤイ駅のホームの混雑を嫌って、ホーム反対側の地面から直接乗降する乗客も多い。
Endstation der Ostlinie Maeklong: Bahnhof Wong Wian Yai. Außerhalb des
Bahnhofs bis auf die Bahnsteige – nahtlos ein wahres Meer von Ständen.

東線東端のウォン・ウィアン・ヤイ Wong Wian Yai 駅はバンコク中央駅第58話 参照) に近く、後日立ち寄る機会があった。うまそうな麺の薫りが漂う露店食堂に雑然と置かれたテーブルやポリバケツをかき分けるように進むと (左上) いつの間にかホームに出るが、ホーム上も屋台が花盛りだ。駅中・駅近ビジネスを地で行く商魂だが、駅の構内も構外も区別は無く、ツタが人工の境界など無視して繁茂する様子に似ている。何事も白黒整然としたドイツに比べ、この混沌こそがアジアのパワーの源泉という気がする。

 

次号 第35話 は熱帯の炎天下から雨のロンバルディアと米国西海岸に舞台を移し、大西洋を挟んで故郷ミラノと新天地カリフォルニアで北半球を股にかけて活躍する、イタリア名物の旧式路面電車をご紹介する。

(2009年11月)
 
 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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