Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
41.【番外編③】 プリンセス・ジュリアナ空港脇の暴風ビーチ

- The Windy Beach at SXM -
今回の取材地:
オランダ
セントマーティン
第2526話の海原電鉄編以来久々の番外編として、今回は航空機編をお送りする。

見上げる観光客の頭上の天を圧する、巨人機ボーイング747-400の頑丈な主翼の広大な下部構造を下から間近に見上げた、この構図の絵を撮りたいばかりに、マイアミに所用があった際にもう一足伸ばしてプリンセス・ジュリアナ空港 (空港コードに従い以下SXMと略記) にとんぼ返りしてきた。この慌ただしい撮影行の原動力は、昔スターウォーズ初回作のオープニング早々の大迫力シーンを見た時の衝撃に遡る。それは帝国軍の宇宙戦艦の進撃シーンを真「下」から、しかもスクリーン一杯に広がる巨大な艦底の様々な構造物まで仔細に見える近さから俯瞰した意表を突く構図で、今でも網膜に鮮明に焼き付いている。それから四半世紀の歳月が流れた数年前、SXMに着陸するジャンボ機の写真をネットで初めて見た瞬間、フラッシュバックのように上記映画のシーンが蘇り、筆者の脳の中でSXM着陸機の画像と重なった。そして虚空に浮く巨艦をすぐ下から仰ぎ見る事ができる場所が、この地上に実在する事を知った。爾来、ジョージ・ルーカス監督のあの天才的構図に少しでも近い絵を自らの手で撮ってみたいと思いその機会を待っていたのだ(懸垂式モノレールを下から見上げる時 (第46話参照) も同様の意外感があって楽しいが、悲しいかなスケールが今一つだ)

立ち寄ったのはカリブ海の小アンティル諸島北部に浮かぶセント・マーティン Saint Martin 島 (フランス語読みではサン・マルタン、オランダ語表記は Sint Maarten シント・マールテン) の、オランダ領部分の砂洲に作られた SXM 唯一の滑走路 (兼誘導路) の西端と金網1枚隔てたマホビーチ Maho Beach で、航空機ファンの天国となっている。建物のすぐ斜め上の超低空をジェット機が高速で横切る様子は、静と動のコントラストが鮮やかだ。一瞬で視界から消え去ったので撮影時には気付かなかったが、写真を良く見ると純白に塗られた737の腹の部分が海面の反射光で青く輝いている。ハチドリをモティーフにしたと思われるカリビアン航空 (トリニダード・トバゴの国営航空会社) の鮮やかな塗装が、カリブ海の群青色や手前のアパートの熱帯植物と、図柄・色合い共に予めコーディネイトされたようにマッチしており、(文字通りの自画自賛をお許し戴ければ) 一枚の絵のように美しい。



縦長の小窓が7枚ちまちま並んだ DC9一族(左)の先頭部 は、卵頭 Eierkopf と呼ばれた 旧ドイツ
連邦鉄道の気動車VT08
(長距離用)/ VT12.5(中距離用)(いずれも形式称号変更前)の
小型7枚窓の先頭部に雰囲気が似ている。鉄道と航空機という「種の壁」を超えた類似が面白い。

冒頭の写真のような大型機では機体そのものが大きい上に2433mという短い滑走路を目一杯使わなければならないので滑走路の端では接地間際まで降下していなければならず、下から仰ぎ見ている見物客を圧伏させる迫力となる。これに対して MD80 (左、DC9の後裔) や B737 (右) のような小型機は滑走路中央部のみの利用で足りるので、柵の辺りでは上空15m程度以上の余裕 (?) をもって通過する為、大型機の着陸よりは迫力が2段階くらい落ちる。しかし同じ小~中型機でも飛び方によっては次の2葉のように随分印象が変わる。



757(右)は727の後継機として737(左)と767の間隙を埋める位置付けのナローボディ中型機だ。
強敵エアバスの得意なセグメントのうえ弟分のベストセラー機737の胴体延長版が出た事もあり、
わざわざ断らなければならない程日本では馴染みがなく欧州でも影が薄いが、米国では結構見かける。

美しいフォルムで着陸する左の B737 が金網付近では目測で車輪まで 15m 超の高度を確保しているのに対して、右の B757 の方はほぼ同サイズなのに下にいる人間を押し潰さんばかりの低さであり、金網上端から車輪まで2~3m位しかないように見える。まさか見物客へのサービスではなかろうが、着陸寸前とはいえかなりの高速で立体運動をするパイロットから見れば上下方向±5m程度のずれは誤差の範囲のように思える。車輪と金網の接触事故が起きたりしないのだろうか。その金網に掴まっている次の写真の人々は、安全を祈念して黙祷を捧げているのではない。離陸直前のジェット機がエンジンをふかした時に巻き起こる後方気流を体験する、この島特有の遊びなのだ。但しこれはコミューター機の離陸時の様子なので、まだ皆余裕がある。

これに対して次の2枚は B727 (後述) の離陸時の様子で、各エンジン単体では今日の感覚では非力だが3基が中央に集中配置されているので一か所にかなりの風が来る。両手で金網に掴まり形相も必死で、さすがに参加者も減っている。吹き飛ばされそうになっている中央の初老の男性の右脇腹が強風に打たれ、内臓にダメージがないか心配になるほどブルブルと激しく波立っていた。YouTube では離陸機の後方気流に 敢えて自ら飛ばされ砂浜を転がって海に飛び込む動画* があるが、浜の大半が大岩で埋め尽くされ荒磯のようになってしまった今 (以前写真で見たマホビーチは美しい砂浜だったが、2008年10月に同島を襲ったハリケーン・オマールが岩くれを置き土産にしたようだ) これをやればこれら大岩で頭蓋を砕かれかねない。他にも SXM 物の YouTube 動画は多いが、沖合まで吹き飛ばされていくパラソル* も面白い。すぐに回収用のボートが出動するあたりはややでき過ぎの観はあるが、それでも後方気流の強さが良く分かる。

筆者もコミューター機の離陸の際に一度だけこの遊びに参加したが、小なりとはいえジェットエンジンの後方気流を僅か数十メートル先で正面から浴びる際の衝撃は強烈だった。エンジン全開後、金属音の急上昇に一呼吸遅れて風圧も暴力的になり目を開けていられなくなった。ここまでは予想できたが、顔にバチバチ当たる砂粒が刺すように痛く、この勢いで小石でも飛んできたらという恐怖が頭をかすめ、咄嗟に逃げ出そうと思った。しかし金網にしがみついている両手の片方でも放そうものなら吹き飛ばされてすぐ後ろを行き交う車に轢殺されかねず、この遊びに参加した以上は最後まで付き合わなければならない事を悟った (この浜で片方のレンズの無い眼鏡をしている人を時折見かけ、ローカルの伊達メガネかと思ったが、この遊びをみて納得した。眼鏡を守るにはスキーのゴーグルが有効だろうが、南国のビーチリゾートに雪山用の小道具とはシュールな組み合わせだ)。噴気には油性の臭いが混じり、バリバリと辺りを覆う轟音から鼓膜を守ろうにも手を金網から放す事もできず、排気の熱すら全身に感じ、遊園地のどんな絶叫マシンよりも迫力があった事だけは確かだ。

小型機ですらこうだったので、中・大型機でこれをやるのは危険だ。筆者の滞在日は見かけなかったが、低燃費で長距離洋上飛行にも対応できる大型双発機 B777 は B747 の座を脅かしつつあり (かつて747最大の顧客だった日航も747を全機退役させ、777の天下となった) 冒頭の写真の KLM の B747 も近い将来 B777 に置き換わるかもしれない。ところが長い胴体と共に B777 を特徴付ける極太エンジンは何と推力約 40トン×2 発、ストレッチ版で長距離対応の B777-300ER に至っては旅客機世界最強の推力 52トン×2 発 (世界最大の旅客機A380ですら32~37トン×4発、長らく巨人機の代名詞だったB747で20~26トン×4発、上の写真で観光客に暴風を浴びせて喜ばせているB727に至っては僅か6~8トン程度×3発に過ぎず、B777の後方気流と比べればそよ風に過ぎない) を誇る。最新のジャンボ機の倍のパワーという怪物エンジンの後方気流の直撃を生身で受けたら、仮に金網にしがみ付き通す事ができたとしても排気の高熱でそのまま網焼きになりかねない。


空気は透明なので後方気流の流れる方向・広がり・速度は見えない (左) が、これに水滴が混じると忽ち可視化する (右)。右の写真の左端が滑走路とビーチの境界の Beacon Hill Road になる。動画でないのでわかり辛いが、通り雨の直後に大型機のジェットエンジンが巻き上げた水煙は忽ち高さ 10m を超えて瞬時に鉄柵と浜を超えて海上に達し、大津波のような勢いで左から右に流れる。この俄か暴風は「風源」のジェットエンジンを積んだ飛行機が滑走し始めて遠ざかるとすぐに衰えるが、最強時は波打ち際から 200m 以上沖まで達していた。真横からの突風にあおられる事を嫌って飛行機が離陸し去るのを手前で待っている賢明な車が、椰子の左に2台見える。

Jet blast of departing and arriving aircraft.. (下線筆者) とあるが、確かに大型機の場合は着陸時も強烈な後方気流が上から襲ってきた。冒頭の写真の撮影直後、全身を突き飛ばされたような衝撃を受けて危うく転びそうになったが、一瞬何が起きたのかわからなかった。筆者の丁度真上に B747 の一番右側の4番エンジンがあり (映っていない)、こいつの後方気流にやられた事に撮影後に気付いた。空港敷地に沿って走るビーコンヒル通りが滑走路端を横切る区間の入口に信号機の残骸があった。離着陸時の通行規制を試みたものの、全く遵守されないのでルール自体が枯死し信号機も朽ちるに任せられていると見えた。大の大人が危険の中に敢えて自ら身を置いた結果は全て自己責任と言うべきだが、食堂の親父の説明によると、自ら後方気流体験をした挙句吹き飛ばされ負傷した観光客が原告となった訴訟が数十件起きているという。



往年の名機B727の翼の端を良く見ると、現代風にウィングレットが追加されていた(左)

水平線の少し上から不意にボーイング727が現れた。B727 の端正なスタイル・凛々しい顔つき・スマートにまとめた後部3発エンジンの組み合わせが織りなす1960年代的流麗さは、同時代の名戦闘機 ロッキードF104* のスピード感をストレートに強調したメカ美に通じ、筆者が最も愛する民間機の一つだ (その後登場した3発機のDC10は対照的にずんぐり体型の上に、3発機で最も目立つ後部エンジン回りの視覚的処理がバランスを欠く為に全体のデザインが破綻している印象すら受け、その肥満した機体は恰も飛びゃいいんだろと太々しく嘯いているが如くだった)。低燃費・低騒音・高出力の高バイパス比ターボファンエンジンの普及に伴い3発機そのものが双発機に続々と置き換わり、旅客機運用から波が引くように淘汰されてしまった。最後に B727 を見かけたのは10年以上前だったろうか。貨物機に成り果てていたとはいえ、辺りを憚らない甲高く勇ましい一世代前の金属音も懐しかった。

レストランの軒先をかすめる、楕円窓の放列がチャームポイントのフォッカー100。このような細長い低バイパス比エンジンは逆噴射時にはエンジン末尾のカバーが上下に割れ「>」型にカパっと開いて噴気を逆流させる thrust reverser と化す仕掛けになっており、見ていて面白い。フォッカー社はオランダの航空機メーカーだったが、エアバスの成長に反比例する形で衰弱し1996年に倒産した。本稿4枚目右側のライアン (米国のチャーター・貨物機会社 Ryan International Airlines で、アイルランドに本拠を置く欧州 LCC 大手 Ryanair とは全くの別会社) も2012年3月にアメリカの連邦倒産法チャプター11 (日本の会社更生法に相当) の適用を申請した、という報道に脱稿日前月に接した。LCC の急速な台頭といい、今日の航空業界の競争は熾烈だ。



SXM出発階から撮影したオランダ国旗。
同空港は砂洲の上にあるので両側が海になっている。

この「空中戦」の激しさとは対照的に、南国の眩し過ぎる太陽や駘蕩とした風に揺れる椰子並木の平和な景色は、オランダ領と言うには余りにエキゾチックな非欧州的光景だ。路上を行き交うアメ車の放列はここが米国の経済圏である事を雄弁に語っており、現に法定通貨でもない米ドルも通用する (というか事実上の主要通貨になっている印象すら受けた)。セント・マーティン島を含むアンティル諸島はコロンブスに「発見されて」 (地元民から見れば「目を付けられて」) 以来植民地獲得競争が繰り広げられた歴史を反映して英米仏蘭領がモザイク状に入り組み、この島も北半分は今もフランス領だ。欧州では 1m も国境を接しない仏蘭両国 (言語圏では緯度的にブラッセルの辺りに蘭語圏と仏語圏との見えない境界があるが、ベルギー領内になる) が遥か大西洋を隔てて国境線を共有しているというのも、クイズ番組にでも出てきそうな面白い現象だ。

【左】コミューター機や自家用機のような軽飛行機も頻繁に沖合からやって来るが、正面から見ていると少しの風でも左右にふらふら揺れているうえ、中にはプスンプスン・・プスン・・とエンスト寸前のような音を出すエンジンもあり、どこか危なっかしい。これと比べるとB747やA340のような巨人機は姿勢もどっしりと安定しており、頼もしげだ。【右】湾北部の東屋は (アプローチ直下のビーチのような迫力こそ無いが) サイドビューながら沖合上空から着陸まで比較的長く観察できるうえに、直射日光を避けて快適な椅子に座って待つ事ができ、しかも宿 (飛来する大型機の本数は限られているので大物狙いをするなら現地泊が必要となるが、ビーチに面した Sonesta Maho Beach Resort & Casino* という宿が aircraft spotter 御用達の宿で、その旨希望すれば航空機が良く見える部屋を押さえてくれる)の wifi の電波が届き待ち時間も無駄にならない絶好の穴場だ。



このA319のような小型機は空港では大・中型機の群れに隠れて影が薄いが、轟音と共に
頭上を通過するとそれなりの存在感がある。この小太りの機種はエアバスのナローボディ
標準機A320の短胴版だが、更に弟分のA318ともども日本ではご縁が少ない。

私が訪れた日の「大物」はKLMオランダ航空の B747-400 (冒頭の写真) とエールフランスのA340の2機のみだった。A340は脱稿日現在で世界で最も航続距離の長い旅客機 (シンガポール‐ニューヨーク長駆18時間半強ノンストップという我慢比べ大会のような運用まである) だ。同機を好む人は「白鳥のように優雅」と形容するが、やや鈍足 (日欧線を例に取ると同区間同方向の747とは30分位の差が出たように記憶する) という、スピードが命の航空機にとって武名にかかわる短所を有するうえ、デザインが間延びした印象から同機に魅力を感じない筆者に取っては、今回の撮影行の成否は B747 (東行便で偏西風の追い風に乗れば時速1000キロ超えもある俊足のうえ、元は軍用機用の基本設計を民間転用した生い立ちからかデザインも筋肉質で精悍だ) が頭上を通過する一瞬だけの1本勝負だった。こうなると遠い昔にローカル線で1日数本のお目当ての列車を待っていた鉄道少年の頃の血潮が蘇り、上のような雑魚機 (失礼) でアングルを研究しタイミングを何度も練習を重ねながら当日の浜の女王の登場 (天から降ってくるので女神の降臨というべきか)を待った次第だ。

ビーチ南端の絶好の場所に Sunset Bar & Grill というウッディなテラスレストラン兼バーがある。サーフボードに手書されているのがその日のメニューではなく、その日ビーチ上空を通過するのが 着陸機*離陸機* (当日の風向き次第だが、ネットで検索できる画像の大半が着陸機なので東風が多いのだろう) と各航空会社の到着予想時刻一覧が分単位で書かれている (左) のが、航空ファンが世界各地から蝟集するマホビーチらしい。肝心の機材までは書いていないが、aircraft spotter たる者、それ位は自分で調べておけという事だろう。海の家に毛の生えたようなビーチレストランに不釣合な得物 (プロが使うような巨大な超望遠レンズ等) を手入れしながら多くの航空ファンがお目当ての飛行機を待っている光景はここならではだ。店主は商魂逞しく彼らに加えて、トップレスの女性目当ての客層も呼び込もうと企んだようだ (右)。しかしこちらは全く成功しておらず、余禄で眼福に与る事もなかった。

今号は連載の題名から逸脱したが、敢えてこじつければ取材地が飛び地の海外領土とはいえオランダ領である事、全機が管制塔の定めるアプローチルートに沿って着陸するので空中とはいえ見えない軌道があるようなものだし、12年もの間続かせて戴いている本連載に一貫した「少し別の切り口から乗物を眺める」基本コンセプトは踏襲しているので、今号の非鉄道的光景はご海容願いたい。鉄道記事なのに脱線が多いとお叱りを受けないよう、次号は「本線」の鉄道記事に戻って、共産バロックの壮大な地底遺産ともいうべきモスクワの地下鉄をご紹介する。

次号第42話は、モスクワからお届けする。
Nächster Halt: Moskau
Fahrplanmäßige Ankunft: Juli 2012

(2012年4月)
 
 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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