Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
46. 微笑みの国の武装宝船・ロイヤルバージ

- 水上交通の美 II アジア編 -

Die navigierende Kunst II – die Prunkbarkassen in Bangkok
今回の取材地:
タイ
フランス


左端のアネッカチャットプチョンAnekkachatphuchong号は、現存する4艘の御座
船中唯一、目立つオブジェを持たない代わりに、エジプトのオベリスクのような
無機質な荘厳さを持つ。良く見ると蛇神ナーガがびっしり彫り込まれている。
Die Suphannahong, erbaut von König Vajiravudh (Rama VI.) 1911.
Trotz der blutrünstig anmutenden Fangzähne bezaubert
die Barkasse mit ihrer wunderschönen Sillhoutte.

美しい水上交通機関の東の横綱はタイ王国のロイヤルバージ (王室御座船) だろう。首都バンコクはベニスのように潟に浮かんでいる訳ではないが、多雨の上に海抜が低いので運河が縦横に走り水害も多いという意味でこれも水都といえ、水の流入を防ぐ為に地下鉄の地上出口も歩道より少し高く、一旦数段上がってから地下に降りる構造になっている。水上マーケット第34話後半参照)のような独特の水上景観はあるが、ベニスのゴンドラと張り合える美しい乗物といえばロイヤルバージ (王室御座船) に止めを刺す。タイの王宮同様船体全体が黄金色に輝く華麗な王室御座船を用いたパレード Royal Barge Procession は数年に1度しか行われないが、タイ海軍管轄下のロイヤルバージ博物館で主要な艇の実物の見学が可能だ。



上は実物、下はスアン・パッカート宮殿で展示されている模型。

筆者が最も美しいと思う (1992年に世界海洋遺産に指定されているので筆者の主観だけではない) 艇がこのスパンナホン Suphannahong 号だ。これは1911年にラーマ6世が建造し、100年以上も旗艦 (後述のように軍船でもあったのでこう表現していいと思うが、正確には旗「艇」か) を務めた 先代 Si Suphannahong(18世紀末にラーマ1世が建造) を置き換えたものだ。Wikipedia によると Suphannahong には「黄金の白鳥」「不死鳥」という意味があるらしい。全長 46.15 m は現存フリートの中で最も長く、尖った顔と相俟ってスマートな印象だ。しかし牙を剥きニタリと笑ったようなご面相は、なかなかの怪物だ。



スパンナホン号のボディペイント機の模型。模型で無ければ見られない角度からの観察を楽しめる。
Modell einer Boeing 747-400 bemalt mit der Suphannahong

スパンナホン号はタイ航空のボディペイント機の題材にもなった。キャンバスとなった機材は B747-400 で、長大な船体を伸び伸びと描くにはこれ以上相応しい機材は無いだろう。単に大きいというだけではなく、先頭だけ膨れた B747独特の形状がスパンナホンのシルエットにぴたりと合っているのだ (世界最長の旅客機B777-300なら長さは十分だが平屋なので金鳥が高々ともたげた首を描く場所が無いし、逆に総2階建てのA380なら先頭以外は無駄な空白が沢山できてしまう)。筆者はこんな見事なボディペイント機を他に知らない。機体下部に引いた紺色をチャオプラヤ川に見立て、実物のバージでは羽根をもぎ取られていた巨大な「金の白鳥」が、銀の翼を得て見事に大空を飛翔するのである。ドイツの航空機模型メーカー (鉄道模型も自動車模型もそうだが、なぜドイツには名模型メーカーが多いのだろう) Herpa Miniaturmodelle GmbH が同機を模型化している。



水面に写った船首下部(左下)も船尾(右下)も芸術的だ。
Anlässlich der 50jährigen Regentschaft von Bhumibol Adulyadej dem Großen
(Rama IX.) wurde 1996 die neueste königliche Barkasse vom Stapel gelassen:
Die Narai Song Suban und ein Modell dermit der Barkasse bemalten A330.

このナライ・ソン・スバン Narai Song Suban 号は、現プミポン国王 (ラーマ9世) の在位50周年を記念して1996年に進水した最新のロイヤルバージだ。船首には両手を広げたインド神話上の火の鳥「ガルーダ」のすぐ後ろにヒンドゥー教のヴィシュヌ神の像が立ち、映画「タイタニック」の一シーンを連想させる。20トンという船重は現存する4艘のロイヤルバージ中、最も重い。ナライ・ソン・スバンのボディペイント機も存在するが、キャンバスとなった機材は中型機 (A330-300) なので迫力は今一つだ。



Die Anantanakkharat wurde im 19.Jahrhundert gebaut und ist das
derzeit älteste Boot der Königsfamilie. Bei genauerer Betrachtung
entdeckt man die unzähligen eingeschnitzten Drachengesichter.

このアナンタナッカラット Anantanakkharat 号は19世紀に建造された現存最古の御座船古写真*で、遠目には巨大な海洋生物のようなヌラヌラした船首だが、近付いて見ると無数の竜の顔が彫り込まれている。八岐大蛇 (ヤマタノオロチ) ならぬ七岐のナーガ (蛇神) をモティーフにしたこのアナンタナカラット号は近くから見ると必ずしも趣味がいいとはいえない (火炎状のトサカの中にも大小無数の怪物が牙を剥いている) が、全体のシルエットの美しさはスパンナホン号に次ぐ。



Die Königsbarkassen blickt auf eine fast 700jährige Geschichte zurück und
wurde im Krieg tatsächlich als Miltärboot eingesetzt. So war es gleichzeitig ein
bewaffnetes Schatzschiff, wie die Kanonenrohr-Öffnungen im gold leuchtenden
Schiffsrumpf beweisen. Heute befinden sich an Stelle der Kanonen Kameras.

タイの王室御座船には14世紀のアユタヤ朝の頃以来700年近い歴史があり、最盛期には供奉船も含め200艘から成る大船団だったという。これらは御座船も含めて戦時には軍船として実際に出撃した為、船首には大砲が据え付けられていた (今日は同じ位置にカメラがある)。黄金色に輝く目立つ御座船に大砲とは今日の感覚では不思議な組み合わせの、「武装宝船」だ。国威盛んな時はいいが、18世紀にビルマが興ってタイに攻め込まれた際はタイ軍は劣勢となり、1767年には遂にこの美しい船団も襲われ、ロイヤルバージもエスコート船も破壊されてしまったという。惜しい話だ。現在少しずつ再建され、パレード時はエスコート役の供奉船を含め約50艘で行進する。



上:金色に輝く玉座が、ぴかぴかに磨かれたバージの甲板に反射する。

王室の宝船たちは二重の柵で守られたタイ海軍の艇庫兼博物館に厳重に保管されている。海軍管轄とはいえ、この庫内に軍事機密も、こんな巨大で思い切り目立つ宝船を盗む怪盗もいないだろうから、この厳重さはテロ予防の為だろうか。



現地でトゥックトゥークと呼ばれる三輪タクシーは、走るバルコンのようで
楽しい。だが急カーブには耐えられないそうもない構造だし、四輪車と衝突
すればひとたまりもないだろう。上:ブレーキライトの取付位置が面白い。
Eine Fahrt mit dem Tuk-Tuk-Taxi macht zwar Spaß, aber da das Royal Barge Museum
schwer zu finden ist, ist der Weg über das Wasser mit dem Wassertaxi praktischer.

ロイヤルバージ博物館は市中心部から少し離れた、地図で見るとベニスのように運河が密集した一角にあり地下鉄は通じていない。一度乗ってみたかったトゥックトゥークないしサムローと呼ばれるタイ名物の3輪タクシーで風に吹かれながら近くまで行った。ところがタクシーから降ろされた場所が運河の影も形も見えない大通りで、運転手が「あっちだ」と指さす先にはバラックがびっしり並ぶ隙間から細い路地があるだけで、その奥は暗闇と混沌に沈んでいた。



艇庫に通じる小路。右下は選挙ポスターで数字は候補者番号だそうだ。
タイの人名はモンゴルと並んで長くて難解だが、候補者名ではなく
候補者番号で訴求するとはタイ人にとっても覚えにくいのだろうか。

結論から言うと陸路はお勧めできない。バナナの木が鬱蒼と茂るどぶ川沿いの迷路のような小路を数百メートル歩く事になり、標識も色褪せて見落としやすく、英語も通じず、往路は心細い思いをする事になるからだ。ロイヤルバージ博物館には小さな船着場もあり、また20分もあればじっくり見学できるので、水上タクシーで乗り付けて見学の間待たせておいて同じ船で戻るのが最も効率的だったと、行ってみてわかった。考えてみれば当然で、艇庫は長いバージが出入庫できる広さの運河に面していなければならないので船の便がいいのだ。



木製の大きな鎧戸が高温多雨の気候を物語る。
Das Boot, das die Königsfamilie nicht für Paraden, sondern
im Alltag nutzt, ist im Suan Pakkad Palast zu sehen.

上記のようなパレード用ではなく、王家の日常ユース用と思われるロイヤルバージの実物とスパンナホン号と思われる (多少意匠が違うので先代の Si Suphannahong かもしれない) 御座船の模型が、スアン・パッカート宮殿 Suan Pakkad Palace で保存・展示されている。同宮殿の一部は公開されており、艇庫は築400年超で古都アユタヤから移築したというラッカー・パヴィリオン Lacquer Pavilion (漆館。右下はその外観。右上は同館から見下ろした艇庫) に隣接している。同宮殿は空港連絡鉄道のパヤータイ Phaya Thai 駅のすぐそばなので搭乗前の間合い時間にひょいと立ち寄れる。



Das im Pariser Musée national de la Marine ausgestellte Boot Napoleons,
das dieser bei seiner Krönung zum Kaiser einsetzte, ist zwar durchaus
prachtvoll, im Vergleich mit der aufwendingen Barkasse der Thai-
ländischen Königsfamilie wirkt es jedoch eher blass und bescheiden.

動態で現存するロイヤルバージは 英国*スウェーデン* にもあるようで、またナポレオンが皇帝に即位した時に用いたパレードボートの実物 (上) とそのパレードの様子を描いた絵 (下) がパリのシャイヨー宮 Palais de Chaillot 内の国立海軍博物館 Musée national de la Marine に展示されている。王権を誇示する為に巨大な王冠を載せた乗物というのはルートヴィッヒ2世の宮廷列車23話*参照) 同様に今見ると滑稽だが、華麗さという点ではナポレオンの王冠付パレードボートよりタイ王室のロイヤルバージの方に軍配が上がる。



左上:夕暮時のチャオプラヤ川桟橋は接岸待ちの渡し船や納涼船で大混雑だ。右:夕刻も美しい暁の寺院
(ワット・アルン)と艶を競う船首の極彩色の装飾は、王室御座船と共通の美の旋律を持っているようだ。
Vergnügen für unsgewöhnliche Bürger: Dinner-Cruise auf dem Chao Phraya-
Fluss. Die prunkvolle Verzierung scheint den Thailändern im Blut zu liegen.

我々一般庶民も乗れる美しい船としては、タイ版納涼屋形船がある。川涼みしながらタイ料理を楽しむ趣向だが、船首の装飾にかける情熱はロイヤルバージと平仄が合っている。他にも観光名所にもなっている水上マーケットや、廃車から取り出したエンジンに長いシャフトにスクリューを直結して屋根を付けただけの細長い船体を豪快に突っ走らせる水上タクシーがタイ独特の水上交通として有名だが、後者はまだ撮影の機会を得ない。



荷を満載した八百屋船、真剣に商品を見定める買物客、水上屋台等が朝の運河を混沌と埋め尽くす。

本連載の本籍地は鉄道記事だが、タイの鉄道については 第34話 でメークロン線の有名な折り畳み市場 (列車通過と同時に市場が見る見る線路を覆っていく動画も収録) をご紹介した。また 第58話 ではバンコク→チェンマイを走る元JR西日本のブルートレイン客車を取り上げる予定だ。ご訪問戴ければ幸である。


「準急ユーラシア」、次は徳島に停車する。
Nächster Halt: Tokushima
Fahrplanmäßige Ankunft: Oktober 2013

(2013年7月 / Juli 2013)
 
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