Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
53. 風の街のダイヤモンド・クロス

– シカゴ名物・高架鉄道の複線平面交差 –

Elevated Level-Crossing in the Windy City
今回の取材地: アメリカ


The level crossing of the elevated and double-tracked CTA lines in Chicago

前号・第52話 の最後で、消えつつある鉄道の平面交差について触れた。今号では今日でも残る – どころではない、無数の通勤電車が高層ビルの谷間に複雑な轍音を終日こだまさせ続ける、シカゴの複線平面交差をご紹介する。この 「シカゴの西宮北口」 とでもいうべきダイヤモンド・クロスを21世紀の今日も残してくれているのは シカゴ交通局 CTA だ。



Aerial view of Chicago city center where CTA
trains run on a small circle line called “Loop”

イリノイ州最大の都会、シカゴは広大なミシガン湖からの季節風に晒されるので Windy City とも言われる。冬のミシガン湖上空から朝日に輝くシカゴ中心部を鳥瞰すると、棒グラフのように高さを競い合うタワー群の中で最も高いビルが 110階建てのウィリス・タワー Willis Tower (旧称シアーズ・タワー Sears Tower、高さは米国2位) だ。そこから北 (写真では右) 数ブロックが市中心部で、本稿で取り上げる CTA ループ線が周回する。

シカゴ中心部を環状運転する区間を地元ではループ Loop という。全長34.5キロもある東京の山手線に対して Loop の総延長は僅か2.9キロ、南北7・東西5ブロックの中心街を長方形に周回するに過ぎない。ここに9駅が並ぶので、平均 322 m という路面電車並の駅間隔になる。1日の乗客数8万弱は、毎日300~400万人を運ぶ山手線の約40分の1だ。ループの北西角は複線平面交差となっており、そこでは (北方向⇔西方向を結ぶ一角だけを除く) 北方向⇔東方向、南方向⇔東・西方向の3か所が短絡線で結ばれている。



Very busy level crossing with trains everywhere heading many directions

写真左上は平面交差の直前を西方から東方に走る電車の前方から対向列車を撮影したものだ。揺れる区間なので手ブレはご海容賜りたい。写真右上と下は、東方から北方に90度右折する電車と西方から東方に走る電車を、ビル高層階と平面交差東方の Clark/Lake (Clark and Lake と読む) 駅からそれぞれ撮影したものだ。架線が無い (給電は第3軌条から行う) 事も相俟って、幾何学的美しさだ。



Many CTA trains return to the stations of origin after circling around on the Loop
at the heart of the City - Very reasonable concept for commuter transport

車体がウィンナーソーセージのように短く、台車が車端に寄せられオーバーハングが短いのは、この半径 27 m という鬼のような急カーブを曲がる為だろう。ループの面白さはこの平面交差だけではない。車両自体は日本製という事もあってか目新しさは無いが、輸送コンセプト こそ面白い。ループを走る5系統中、ブラウン・パープル・ピンク・オレンジの4系統はループを1周してから元来た方向に戻っていくのだ。



西行きピンクラインの通過後、東行きグリーンラインを待たせて、行先
表示が始発駅リンデンのパープルラインが、北から東行き線に割り込む。
CTAは右側通行なので、時計回りが内回り、反時計回りは外回りとなる。

大都会には、副都心とはいかないまでも 「核」 となる重要地点が必ず複数ある。それらを環状線で結ぶ事自体は東京・大阪・名古屋・ベルリン・ロンドン・モスクワ第42話 参照)・北京・上海等の大都会で一般的な手法だ。しかし、市中心部全体を終点に見立てて郊外線を環状線に乗り入れて周回して折り返すシカゴ方式の利点は、① 郊外電車に乗ったままで環状線を1周してくれるので都心の複数の 「核」 に乗換無しで行ける点と、② 折り返しの時間ロスが防げる点にある。「6」 の字運転をする大江戸線はこれに近いが、建設年が新しいので東京の 「核」 を必ずしもなぞっていないのでメジャー路線とはなっていない。



Tower 18 controls the traffic for the safety of the level crossing

郊外とのシャトル輸送とは別に、グリーンラインはループの二辺をなぞって町の反対側に直通し、都心通過客の需要にも応えている。このように多様かつ大量の需要をバランス良く満たすため、ループに入線する電車の運行系統は複雑だ。それを捌くキーが北西角の十字交差と、南東角のT字分岐だ。いずれも平面交差なので鉄道愛好家には見応えがある。前者の安全を監視する第18監視塔 Tower 18 (写真左の白矢印) はごく最近建て替えられたが、古写真 を見ると西→東方面の軌道が現在ある位置 (写真右の白い箱がある辺りから進行中の列車を支障する位置にかけて) にかつて旧監視塔があり、線路配置も (従って運行系統も) 全く違っていた事がわかる。



左右から電車が割り込み、あちこちに分岐し、よそ
  者には何がどうなっているか分からないカオスだ。

郊外鉄道が都心環状運転による方向転換を行う 「」 形運行形態を4パターンも組み合わせたこの輸送コンセプトは、人口300万弱で「核」が都心部の比較的1か所に固まっているシカゴだからこそ有効ともいえる。人口1300万で多数の「核」が都内広域に散在する東京ではこうはいかない。南北に細長い巨大な米粒形の山手線の西側 (池袋-新宿-渋谷-恵比寿) と東側 (上野-東京-新橋-品川) を、それぞれ湘南新宿ラインと上野東京ライン経由で北関東と神奈川を直通運転する壮大な構想が今年 3/14 に遂に実現した。これらの途中駅はいずれも欧米の中小都市の最大の駅並の利用者があり、これら都心の多くの 「核」 を総人口3000万の関東各地と直結しただけでなく、実質的に山手線ほぼ全線を複々線化した意味は大きい。シカゴ・東京共に、それぞれの都市や後背地の規模に応じた見事な解決例だ。



Above: Busy trains, busy signboards. Below:
CTA staff helps passengers who need assistance

左上:直進車は時速35マイル・右折・左折車は10マイル制限とか、進路を確認しろとか、道路標識のようだ。右上:「WAゾーン」 とは Waiting Zone の事ではなく Workers Ahead ゾーンの由。実際、ラッシュ時には係員が交差点に降りて列車の誘導をしていた。給電は直流600Vに抑えられており、同じく第三軌条方式の丸ノ内線や銀座線と同じだ。下:運転手直後のドアに係員がスロープを付けて車椅子利用客をサポートしていた。3名の乗客が利用していたので、予め予約して特定の電車の特定のドアを使うシステムのようだった。写真右奥が平面交差だ。



Level crossing - above and below the tracks

この高架線を地元では 「エル L」 という。高架鉄道 ELevated railway の最初の二文字から取った略称だ。「L」 の平面交差部分の下は普通の十字路だ。写真下の右端に路駐している白いバン (オレンジのウィンカーをアメリカ式にスモールライトとして点灯中) が、高架上の Clark/Lake 駅からも見下ろせた (写真上の右端)



The Ogilvie Transportation Centre (above) and the Union Station (below)

以上のように CTA 線自体は実に合理的な輸送を行っているが、残念なのはその合理性がCTA内部で完結している事だ。シカゴには中距離通勤列車を運行する 北東イリノイ地域通勤鉄道会社METRA (愛称は社名と全く一致しないが、多分 METropolitan RAil をもじったのだろう) 用のオギルヴィー交通センター Ogilvie Transportation Centre (OTCと略称。写真上、Clinton 駅より遠望)、ユニオン Union 駅 (METRA と長距離列車を運行する Amtrak の兼用)、ミレニアム Millennium 駅 (METRA・南岸線兼用) 等があるが、いずれもCTAと接続していない。上の組写真の下3葉はユニオン駅だ。欧州的装飾を施したコンコースと、巨大なガレージのようにそっけないホームの落差の大きさは、北米独特だ。左下は禁酒法時代のギャングとの戦いを描いた映画アンタッチャブルで乳母車の転落シーンが撮影された同駅大階段だ。



METRA trains with very American styling

OTC駅やユニオン駅を出発した列車は Clark/Lake 駅と Clinton 駅の間でCTA線と立体交差する。超高層ビルを背景に非電化の鄙びた線路をミシミシと踏みしめながら、総二階建てのステンレス客車をど派手な警戒色を塗ったディーゼル機関車が推進する、如何にもアメリカ的鉄道光景だ。メトラの制御客車 (右下) の台車のすぐ脇には、アメリカの郊外列車名物の 「鐘」 が見える。



The Millennium Park and the Millennium
Station where the South Shore Line originates

シカゴ南東の通勤客を運ぶメトラの始発駅、Millennium 駅はループ北東端の Randolph/Wabash 駅から徒歩約5分の地下にある。Amtrak の長距離客は駅からタクシーでいいとしても、毎日の通勤客を運ぶ METRA 線がCTA線に接続していないのは不便だろう。ミシガン湖の南岸で2階建通勤電車の路面走行が見られる南岸線 South Shore Line 第48話 参照) も Millenium 駅が始発駅で、同線ホーム (上の組写真・下) はその東端にある。



The replicas of the French Guimard gate can be found at
Kievskaya Station in Moscow and at van Buren Station in Chicago

パリのメトロを美しく彩るエクトール・ギマール Hector Guimard 作のアール・ヌーヴォー様式の植物状ゲートのレプリカが、ここシカゴ (写真右上) とモスクワにある点は 第18話 でご紹介した。モスクワ・キエフスカヤ駅のギマール門が地下入口の雑踏を睥睨しているのとは異なり、2001年にパリ市から寄贈されたというシカゴのギマール門はミシガン湖畔の van Buren というオランダ風の名前の駅傍らの地下倉庫入口にひっそりと佇む。しかしラッシュ時のメトラは複々線を乗客満載の総2階建通勤電車がモリモリ並走し、アメリカ=車社会の先入観を崩してくれる。面白いのは色灯式信号機による閉塞運転を行わず、渋滞時は路面電車のように先行列車にピタリと接して続行運転する点だ (上の組写真・下では3本がダンゴになってホームが空くのを待っている)。どういう信号方式なのか、そういえば 第48話 でご紹介した南岸線の路面区間でも (Amtrak線との交差地点を除き) 信号機を見かけなかった。


ループ東側線を北上するグリーンラインの電車。柵も避難路も無いので車輪までむき出しで見える。独特の形状の街灯の放列を見ていて何かに似ていると記憶を辿ったら映画エイリアンの卵のシーンに思い当った。



Tower 12 watches out at the South-Eastern corner of the Loop

ループ南東角はそのまま南下する線とマージするT字路になっており、T字の突き当りには第12番監視塔がある (写真右上)。南東角最寄りの Library 駅は ハロルド・ワシントン図書館Harold Washington Library Center (写真左下は西洋で知恵を象徴するフクロウをモティーフにした同館の装飾) の最寄駅だ。写真右下のようなクラシックな超高層ビルが如何にもアメリカの古都 (?) らしくて面白い。



The CTA Blue Line trains also serve as shuttle trains to O’Hare
Airport, one of the busiest airports in the world with 8 runways

シカゴ・オヘア空港に直通するブルーラインは高架ループを経由せず、Lake 駅地下ホームから地下線でループの中間を南北に突っ切る。この区間は地下駅と地下駅の間にも暗黒のホームが続き、明るくなったら次の駅という不思議な空間だ。オヘア空港 (ORD) は滑走路8本を持ち、アメリカン航空 AA とユナイテッド航空 UA がハブ空港として用いる、一時は離着陸数世界一を誇った巨大空港だ。


準急ユーラシア、次の停車駅はロンドン・ヒースロー空港第5ターミナルだ。
Next stop of the Trans Eurasia Express: LHR Terminal 5
Expected arrival: August 2015

(2015年5月 / May 2015)
 
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