Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
54. ロンドン・ヒースロー空港の無人タクシー・ POD は優れもの

POD System at London Heathrow Terminal 5
今回の取材地: イギリス フィンランド


A POD car and the BA fleet at Heathrow T5

ロンドン・ヒースロー空港 (以下「LHR」) は旅客数ベースで欧州1位・世界3位 (2014年は成田空港の倍以上の7340万人) で、離陸も着陸も順番待ちが常態化し、着陸間近のフライトマップの航跡 (↓) が示すようにロンドン東方の上空を何周も回りながら着陸許可を待つ事も珍しくない大空港だ。増加し続ける乗客を捌く為に増築に増築を重ね迷宮のように複雑化した T1~4 から西に約 2.5 キロの地に建設されたのが第5ターミナル (以下「T5」) だ。T5 のコンコースAはイギリス最大という巨大ビルで、英国航空BAの牙城となっている。T5 だけでも大空港の威容を誇り、コンコースA から東方に約 500m 毎にコンコース B と C というサテライトターミナルを従え、これら 5A~5C は駐機場や誘導路の地下を走る People Mover で結ばれる。今号で取り上げるのはこの地下鉄ではなく、T5 コンコースA付属駐車場と外部駐車場を結ぶ POD という乗物だ。



下:日系航空会社が未保有の総二階建A380をBAは大量に導入した為、LHRではこの
世界最大の巨人旅客機がそこらじゅうの誘導路を悠然と(タクシングなどと生易しいもので
はなく)のし歩いており、ランプバスから見上げるとさながら空港版ジュラシックパークだ。
LHR, the busiest passenger airport in Europe, is always crowded with
pax and planes including A380s that are not yet common in Japan.

T5 に併設された駐車場ビルは高価な為、長期旅行者は約4キロ離れた外部駐車場を利用する。当初はバス連絡だったが、待ち時間の解消とクリーンエネルギー化の為に個別高速輸送システム Personal Rapid Transit (PRT) の導入が決まり、2011年5月より運行を開始した。新交通システムには多様なものがある (例えば 第37話 参照) が、PRT は、駅を待避線に設置して通過車を支障させず、また分岐を多数設けた軌道を POD と呼ばれる小型輸送 「容器」 が点と点を直行で結ぶ、自動タクシーのようなコンセプトだ。PRT第1号は米国西バージニア州のモーガンタウン Morgantown で1975年に運行開始したが、これは20人乗りで 「直行ミニバス」 という感覚だった。T5 ではもっと小型の、英国 ULTra Global PRT 社の都市軽量交通 ULTra システム (Urban Light Transit) が採用された。



上:T5を後にするPOD。下:B駅側線からT5を俯瞰。
A POD system, developed by a Bristol-based engineering company ULTra
Global PRT, is connecting T5 and the long-term car park since 2011

上記ウルトラ社はコスト低減の為できるだけゴムタイヤ等の既存技術を組み合わせ、バッテリー駆動として軌道の給電設備を (停車位置における充電器以外) 全廃して簡素化し、人間では左右の縁石にぶつけずには運転できない狭いコンクリ軌道を器用に自動走行する。T5 では 3.9 キロの軌道上を21台の POD が走り回っている。POD の最高時速は40km、登坂能力は20% (200‰)、荷重上限 500kg、車椅子や空港のトロリーもそのまま収容できる優れものだ。



ULTra (Urban Light Transit) is one of the personal rapid transit (PRT) systems that
feature automated point-to-point transport for single or small number of passengers.

T5 駅の様子。タッチパネルで目的地 (ここではA駅とB駅しかないが、将来のインドのプロジェクトでは遥かに大規模で複雑なネットワークが計画されている) を押すとすぐにドアが開く。停車中の POD が無くてもボタンを押すとすぐに来てくれる。平均待ち時間はエレベーター並の12秒だといい、各自の目的地に自動で直行する個別少量輸送コンセプトと併せ 「水平エレベーター」 とも表現される。この形容は 第50話 でご紹介したサンクトペテルブルグのフルシチョフ時代のメトロ駅でも出てきたが、ロシアの方は単に大量輸送方式の普通の地下鉄のホームドアの形状をエレベーターに似せて造ったと言うに過ぎない。



POD station at T5

T5 駅手前は 180°のループ線になっており (上)、到着車はループをぐるりと回って空いているベイに入庫すると、自動的にドアが開いて客を降ろす(下)。T5駅は4台分の乗降用ベイがあり、POD は斜めに前進駐車する。上の写真はベイに停車中の POD の後部と、次のPOD が到着する様子だ。



Left: Three POD cars parking at T5, seen from a passing-by POD (above) and upon boarding.

左の写真は筆者用に開戸している1台を含め、3台が並んで斜めに前進駐車している様子だ。空気抵抗を考えなくて良いこのような低速車両でも欧州の美的感覚では外面は面一でなければならない (日米は車体外面の凸凹に余り頓着しない傾向があるので今日でも引き戸方式が多い) ので、扉はこのようにパカッと外に開くプラグドア方式だ。中上はT5到着間際の POD からベイに停車中の POD 後部をドア越しに写したものだ。POD は皆美しい個性的なフィルムで覆われているが、筆者が最も気に入ったのがマリオットホテルのラッピング広告の一つ (同社だけで複数パターンを見かけた) で、日本の伝統模様・青海波に似たデザインを虹色のグラデュエーションで表現したものだ (右、ちなみに青海波は屋島攻めの際に源義経が騎乗したとされる名馬の名でもある)



Simple and clean interior of POD which starts its journey after
the passenger pushes the “door close” and “start” buttons.

大人なら4人乗りの POD 車内。大きな窓と小さな点光源の組み合わせが欧州らしい。正面中央は非常時の脱出口となっている。天井には大きなモニター、ドア脇には小モニターとボタンがあり、扉閉と出発は乗客がボタンを押す。車内カメラの映像は管理センターに映し出され、通話もできる。



“Rush hour” at T5


左上:POD の各停車位置の傍には、側線も含めこのような制御装置と思われる箱が鎮座する。右上:乗客を乗せ、後退後左カーブを切りながら出発する POD。この動きは自動車発進時の感覚だ。停車位置中央に見える突起は充電器か。T5 駅からは、A・B 両駅と往復する多数の POD がガラス越しに見える。



Aerial view of the POD track

西風の日だったのか東方向に向かう搭乗機が西方向に離陸し上昇中に旋回して LHR を通過した際に、POD 路線の全景が見えた (上)。下は駐車場付近のアップだ。このようにA駅・B駅は相互に近く、車を停めた位置までの歩行距離をできるだけ短くすると共に、利用客が少なくて遊んでいる POD が増えた時に両駅側線の空きスペースを簡単に相互に融通し合えるようにする為でもあると思われる。



PODs are wrapped with well-designed films in many colors.

第5ターミナルビルを飛び出し (左上)、空港の西外周道 Western Perimeter Rd. と並走 (右上) した後にこれをひと跨ぎする (下左右)。行き交う POD 達は様々にデザインされたラッピングフィルムで装飾されて妍を競っている。車体広告も多いが、どれも宣伝色を抑えた洗練されたデザインだ。前照灯は白とオレンジ、尾灯は赤とオレンジで統一されている。全自動運転なのでオレンジ色のウィンカーは不要の筈だが、オレンジ灯も前後共に常時点灯だ。ロボットに人型の顔を付ける程度の意味で、馴染みのある自動車のライト色に合わせただけかもしれない。



The track is so narrow that cannot be steer-driven manually
without hitting the curbs on both sides of the track.

A駅・B駅のある駐車場には、色々なパターンのルートで走れるように POD用の高架軌道が頭上を複雑に這い回っている。自動運転でなければ左右の縁石に接触せずに走る事は不可能な狭い軌道が上空を走り回っている様子は、遊園地のようだ。カーディフの試験線 では軌道両側の柵が無くもっと 「未来の乗物」 感があったが、営業線ではびっしり金網で囲まれている。少々監獄の中のような閉塞感が残念だが、緊急時の転落事故や不審者の軌道侵入防止の為にはやむを得ないのだろう。



It looks more like an amusement park than a car park..

脱稿日現在5ポンドの運賃は一人利用では少々高く感じるが、バスとタクシーの間と言う価格設定なのだろう。改札は無く、運賃は駐車料金に含まれる。空港から駐車場に隣接するホテル Thistle London Heathrow Terminal 5 に宿泊するだけのトランジット客等、車を利用しない乗客は、ホテルのフロントで自己申告する。今後 LHR の他のターミナルや、空港周辺のホテルとの連絡用にも POD を建設する案がある。現在は LHR 周辺のホテル群との間は路線バスを無料で利用できるので後者の場合は実質的に値上げとなるが、大きな荷物を引いてバス停と宿を往復する手間や早朝深夜の利用を考えれば勿論便利になる。

 



Station A


左上:A駅に到着する先行 POD。右上:A駅へ降りる坂を上下する POD。何か違うと思ったら右側通行だった (英国の道路は左側通行)。下:A駅全景。2台分のベイ・自動ドア・制御パネルを組み合わせたシンプルな構造だ。同様の構造のB駅との違いは、A駅構内には検車場がある点だ。



Above: Three PODs are waiting (and batteries are charged) at
sideway near Station B, and two PODs are stopping at Station B.


B駅。高架線を下り180度旋回して駅に到着する寸前に側線が設けられており、ここに3台まで空車をプールしておく事ができる。これは駐車ベイがA駅・B駅ともに各2台、T5 駅に4台の計8台分しかないので、利用者が少ないと軌道上に POD が溢れ出てしまう事を防止する為だろう。また各停車位置には充電器もあるので、電池残量が減った POD を効率的に充電するという目的もあると思われる。写真上の左側の3台が側線待機中、左下は側線の POD を本線走行中の PODから横目でみた様子、右下はB駅のベイで客扱い中 (右) と出発していく (左) POD。



Station B

行先ボタン (英独仏西の4カ国語から選べる) を押すとすぐに Heathrow Express のラッピング広告車がやってきた。この辺りは確かにエレベーターの感覚だ。まずホームドア (と言うのか) が開き、続いて車両ドアが開く辺りは最近の都会の電車の感覚だ。しかし車両はタクシーサイズだ。全てが無人の、何ともユニークな乗物だ。



上:夜のA駅から第5ターミナルビルを見ると、構内バスでT5に到着した大勢の乗客
を入国・トランジット階に運ぶエスカレーターの放列の特徴的な光景も良く見える。
I added several pics of the Heathrow Express which is frequently advertised on the POD wrap ads.

POD のラッピング広告で最も目立ったのが Heathrow Express (以下「HE」) のものだった。HE は稿を改めて取り上げる事もないと思うので簡単にご紹介する。HEはロンドンの西のターミナル、パディントン Paddington 駅から Heathrow Central 駅 (T1・2・3) を15分で結ぶ。T5 という巨大ターミナル開業に伴い2008年以降HEは皆 T5 行きとなり (所要21分)、それまで Heathrow Central 駅からループを描いて T4 経由で折り返し運転していた運行形態が改められ、T4 駅 ⇔ Heathrow Central 駅間は支線扱いとなった。



パディントン駅には児童小説 「くまのパディントン Paddington Bear」 の像がある。
Above right: The seats of Series 332 are – in line with the British taste – soft.

写真の 332 形はドイツの Siemens 社製で交流 25kV の電化路線を最高時速 100 マイル (160km) で走る。2等車は 2+2、1等車は 1+2 (2012年からのアコモデーション改良工事後は1+1) の座席配置で、シートはイギリス人好みの柔らかいクッションが用いられている。Heathrow Central ⇔ Paddington 間ノンストップの HE (15分間隔) に加えて、途中停車駅を増やした Heathrow Direct という快速電車も設定されており、こちらきりっと引き締まった顔 (下) の HE 専用車ではなく、少しぽかんとした顔の近郊車両が用いられる。



ロンドンのPOD(左下)とヘルシンキ⇔聖ペテルブルグ間の国際特急アレグロ(右下)のボタン式評価
パネル。フィードバックを求めるメッセージはアレグロではロシア語・フィンランド語・英語の三カ国
語表記だが、PODの方は(絵を見れば分かるとはいえ)英語のみ、という辺りが微かに島国らしい。
This is what the market economy is all about: “Feedback Collecting Smileys” at LHR T5 POD Station
(bottom left) and on board the ALLEGRO trains running between Helsinki and St. Petersburg (right)


左下:T5 駅からエレベーターに向かう途中には POD 利用の感想を4段階評価で求めるパネルがあるが、「very good」 のニコニコ顔の緑ボタンのみ手垢で汚れていたのは同慶の至りだ。類似の評価ボタンパネルがフィンランドとロシアを結ぶ国際特急アレグロ Allegro第43話 末尾・第50話 前半参照) にも設置されていたが、同じメーカーの製品だろう。乗客のフィードバックを重視する姿勢は素晴らしく、現に POD もアレグロも利用者目線の配慮が行き届いた移動手段だった。ULTra 方式の POD はロンドンのみならずインドのアムリッツァ等でも実用化の計画がある由だが、益々洗練されたものに進化していく事を期待する。




次号第55話は、北海 Nordsee の海原鉄道をご紹介する。
Next stop of the Trans Eurasia Express: Nordsee (D/DK)
Expected arrival: November 2015

(2015年8月 / August 2015)
 
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資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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