Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
56. Mandø の海上トラクターバス

- 地球温暖化時代にブレイクするか? -
The Mandø Traktorbusser – The Ultimate Means of Surface Transportation in the Era of Global Warming?
今回の取材地: デンマーク 日本


Mandø, a small (7.63 km²) island in the Danish Wadden Sea, is connected with the mainland over
an unpaved 4km-causeway barely over the sea level, on which cars are running at their own risks.

地球温暖化の影響で今世紀末には海面が最大82cm上昇するかもとか、グリーンランドの氷床が全て溶けると海面が7m上昇するとか、穏やかでない記事を目にする。熱心な人が作成した Flood Maps というページでは世界中の海岸線の変化をシミュレートできる。数字の真偽はともかく、もし本当に現在人が居住する低地が満潮時に冠水して干潟化する地域が出てくれば、交通機関も対応を迫られるかもしれない。そのヒントになる交通機関が、デンマーク南部にある。

 
1 海面を走るトラクターバス
 

干潮時に海底が現れ陸地と島が繋がる現象を トンボロ現象 というが、前号 ではここにレールを通した北独の海上トロッコをご紹介した。今回ご紹介するのは軌道敷設も架橋もせず、多少の冠水はものともせず海を押し渡るトラクターバスだ。積雪地帯に普及しつつあるキャタピラー方式のバスでも干潟を走れるだろうが、夏季は道路 (走行区間の両端は通常の舗装道路だ) を傷めるうえ、頻繁に海水に浸かる環境では塩害に耐えられず、この方式に落ち着いたのだろう。



The tractor-towed “Mandøbusser” is apparently the only public transport between Mandø
and the Danish mainland. The 10th and the 12th Generations of the fleet are double-deckers.

いかついトラクターが牽引する2階建客車は、デンマーク・ユトランド半島南部の Vester Vedsted (「西木場」、同国最古の町と言われるRibe南西の小集落) と、沖合4キロに浮かぶ Mandø (註1) 島とを結ぶ Mandø Traktorbusser の主力車だ。 2000年就役の第10世代と2010年就役の第12世代がこのタイプだ。木製ベンチが並ぶ2階席は眺望・開放感に優れ、固定窓・クロスシートの1階席は悪天候でも安心だ。

(註1) デンマーク語の ø はドイツ語の ö に近いそうだ。Ö は特に d の後に来るとカタカナ表記が難しいが、Döner Kebab をドネル・ケバブと表記する例に合わせると Mandø は 「マンドー」 となるが、地元では 「マヌー」 に近い発音をしていた。


The 11th (open coach) and the 13th (closed coach) Generations are “flat” coaches. With the tall
air intake and the exhaust pipe, the engine is prepared to operate on the sea with rolling waves.

2008年就役の第11世代と2013年就役の第13世代車は平屋車で、乗客数に応じて2階建車と使い分けている模様だ。11世代車 (右下) は開放型客室で夏に適し、13世代車は固定窓式で寒期に適する。屈強な牽引機は軍用車みたいで、波を被ってもエンジン燃焼室への浸水を防ぐ為に吸気口も排気口もボンネットから上に高く突き出ている (左下)



Above: The 11th-Generation Mandøbusser enters the water-covered section of the Låningsvejen

乗客が多ければ臨時に2号車も出て 続行運転 がなされる。上:筆者が乗る先行の1号車の2階デッキから後続の2号車 (第11世代車) を眺めた様子で、丁度 Mandø島から本土に向かって海に入るところだ。1号車も同じ Låningsvejen を走っているが、既に路面は海面下に没している。下:Låningsvejen は途中で「く」の字形に曲がっているので、2号車の斜め側面の様子も遠望する事ができた。

 
2 Låningsvejen と Ebbevej
 
【下の写真】上:Låningsvejen を行くトラクターと客車の連結部分の様子。Låningsvejen は Lahnungsweg (独) のデンマーク語と思われる。ドイツ語で Lahnung とはファシーネン Faschinen と呼ばれる枯木類を詰め込んだ潮流緩和用の二重杭列、Weg は小道で、上空から見る と確かに Låningsvejen の両側には Lahnung が並び、小道が海流で流されてしまうのを防いでいるのがわかる。


下:画面奥に Lahnung が海面から顔を出しているのが見える。
Above: The rear view of the tractor towing the 12th Generation of the
Mandøbusser on Låningsvejen. Below: Tidal flow crossing the Låningsvejen.

下: 進行方向右側の様子で、潮はこの時間帯は北 (手前) から南 (奥) に向かって流れていた。バスの周囲 360°見渡す限りの透明な海面が、道 (Låningsvejen) を横切って一斉に移動していく様は壮観であり、またその清冽さが清々しい。Låningsvejen が土ではなく小石を積み上げてできているせいか、道路を洗う潮汐流の海水は濁らない。ゴミも浮かんでいないのはファシーネンがフィルターの役割も果たしているのかもしれない。海面に浮かぶ泡の放列がS字形に蛇行しており、海流というのは真直ぐに流れるものではないものだと知った。


Mandøbusser used to make a shortcut by using the Ebbevej, but after
a fatal accident in 2010 the route was changed and since April 2011
all buses use Låningsvejen which is a longer way but more shallow.

浅海や湿地に盛土をした道を土手道 (英:causeway / 独:Damm) というが、 Låningsvejen は Mandø島・本土間を隔てる海の一番の浅瀬に丸砂利を積み上げ、中央の道路部分を突き固めて道路両側に消波用丸石を縁石状に並べた、シンプルな土手道 (註2) だ。従って道路面は満潮時でも僅かに海水に浸かる程度で、後述の Ebbevej のように海面下の道路の位置を示す為の 「並木」 は不要だ。

(註2) 簡単な構造なのでメンテは砂利の定期的な補充等で済むそうだ。産業の少ない地域の雇用創出事業的な位置付けでも与えない限り、車が走れない上にレールの保守が必要な海上トロッコ方式よりも海上トラクター方式の方が費用対効果は大きいだろう。


Since water is deeper along Ebbevej (shortcut between Mandø and the Danish mainland), two rows of
thin trees (bottom right) show where the road is. These trees have the same role as the arrow signs in
Hokkaido in Northern Japan (bottom left), showing where the road shoulder is in snow-covered Winter.

左上: 一般車通行可の Låningsvejen は、時に海没するにもかかわらずナビ画面に道路として表示される。この道は画面右 (北) 寄りに遠回りして一番の浅瀬を通る。画面左側 (南) には Ebbevej (≒ Ebbeweg(独):「干潮時の小路」) があるが、「道」 が現れる時間が短く、また Låningsvejen のように嵩上げ工事も行われず、僅かに水面下の 「道」 の位置を示す為に細い木が両側に植えられている (右下) だけだ。この過酷な環境に植えられた 並木 の役割は、積雪時に路肩を示す北海道の路肩標識 (左下) に相当する。Ebbevej は水深があり車両通行禁止でナビにも表示されない (筆者が点線で書き加えた) が、近道の為かつてトラクターバスはこちらを経由した。しかし2010年の11世代車の 転倒事故 を受けて2011年4月以降トラクターバスも Låningsvejen 経由となってしまった。写真右下は Låningsvejen から Ebbevej への分岐点の満潮時から約2時間後の様子だが、確かにトラクターでも厳しそうな水深と潮流だった。


These signboards at the entrance of Låningsvejen show what the Western
“self-accountability” is all about. If it were in Japan where such concept is
uncommon, there is no doubt that this road will be completely closed to traffic.

Låningsvejen は車両通行可ではあるが、入口には 「潮の知識無く渡海するべからず」 との標識がデ・独・英の3か国語で記されている。自己責任を地で行く警告で、この文化の無い日本なら一律通行禁止だろう。写真中の草の生えている一帯は満潮時も冠水しない陸地だが、荒天時 はこの一帯も海没する。

 
3 車内ギャラリーから
 

客車の壁には Mandø島への歴代の交通手段や、「潮の知識無く渡海」 を試み海中で立往生していたところを救出された自家用車の古写真のギャラリーがあったので、一部ご紹介する (車内の展示写真(撮影者不明)を撮影の上所定の大きさ・形状に編集)



On-board gallery: These photos in the bus show what happened to those
who attempted to cross the sea “without knowledge of the hightides”.

極端な遠浅の海の潮汐流は速い。干潮時に通常の車で乗り入れて動輪を泥にとられて脱出できないところに潮が満ち出したら、見る見る増水して季節や天候によっては生命の危険すらある。岸まで泳いで戻れない場合、唯一の脱出方法はトラクターに牽引して貰う事だ。トラクターバスの車内ギャラリーには、海中に取り残されたマツダとシトロエンが救出される様子の写真が掲出されていた。Youtube には 動画 もある。



Furthermore, the history of the Mandøbusser is displayed in the bus. Service started
in 1901 with 1 HP, the engine-driven service started from the 4th Generation in 1930.

初代 (1901年) から3代目 (上・1930年) までは馬車だった。4代目 (中・1937年) から動力化されたものの、トラック (おそらく4輪駆動) の荷台に、運転台とは切り離された簡易客室を設けた程度だ。5代目 (下・1950年) は4代目の延長線上にあるが、客室が拡大され運転台も取り込まれてボンネットバスとなった。



From the 6th Generation the Mandøbusser is towed by a tractor. As opposed
to the Road Train in Australia, Mandøbusser looks like a “Sea Train”.

6代目 (上・1956年) からトラクターが客車トレーラーを牽引する方式に改められ、今日の祖型となった。7代目 (中・1960年) では客車が2両連結となり、トラクターも含めると堂々の3両編成となった。レール無しで走る数珠繋ぎの乗物はオーストラリアの Road Train が有名だ。トレーラーを連ねた最長100mもの長大車両が時速100kmで大陸の一本道を驀進する迫力は Road Train が勝るが、海上を走る爽快さと Sea Train とも形容できる奇観の点では Mandø バスに軍配が上がる。9代目 (下・1980年) は牽引機が軍用車的ないかついものになり、これまでの農耕用トラクターの改造車とは大幅に様子が変わった。

 
4 Mandø島
 

トラクターバスは泥濘や浅瀬を走れるとはいえ、荒天時は運休となる。両隣の Fanø島 (人口3000超) と Rømø島 (同650) は、共に本土との間は本格的な舗装道路で結ばれているが、Mandø島では島民が道路建設に反対したという。僅か7.63 km²・人口40名 (Wikipediaのデータは言語によって多少異なるが、2015年1月1日現在という基準日を明記した独文版に基づく) という小さな島が道路で本土と繋がれば観光客が殺到し、島の静謐な暮らしが失われるからというのが理由だった。島民の矜持を見た思いだった。



As opposed to the Hallig in the German Wadden Sea where people live on the
man-made hills called Warft, the landscape of Mandø is similar to the same on
the mainland - houses are built on the ground, and you can see many trees.

前号 でご紹介した北独ハッリゲンの島々同様ここも海陸の境は曖昧で、バスはいつの間にか海上走行を終えて Mandø島に上陸していた。約2mというこの島の最大標高 (堤防を除く) は一見非常に低いが、島の大半が海抜ほぼ0mでヴァルフト Warft という人口丘を築かねば生活できない Oland島や Nordstrandischmoor島 前号 参照) とは大違いだ。沼地 (写真中) を抜け、居住区域を囲む二重堤防の内側堤防の切通し (写真下) を越えると林や農地が現れ、本土と似た肥沃な光景がそこにあった。ヴァルフトも存在しない。この点、ヴァルフト以外は見渡す限り草原か沼地しかない茫漠としたハッリゲンの島々とは光景が全く異なる。





Mandøbusser waiting for its departure at the center of the island.

広い海の中にあってはそれ程大きくも感じなかったトラクターバスも、島の集落の細い通りで見るとなかなかの怪物だ。前号でご紹介した北独 Halligen の島々同様、運が良ければ浜でアザラシを見る事ができる 前号 後段でご紹介したように、ここから僅か数十キロ南の海上トロッコの軌道が流氷で破壊された事がある程の高緯度地帯なのだ) 他、夏には トラクターサーフィング もできる。「働く車」 のイメージしかなかったトラクターでこういう遊びができるとは知らなかった。



The museum “Mandøhuset” in front of the Mandø bus stop used to be the house of a ship-
master in the 18th Century. All beds are built in alcoves that can be closed with doors, which
evidences the coldness in winter. The sleeping alcove is called “æ swot kammer” (DE: die schwarze
Kammer / EN: the black room) but only the swot kammer for the shipmaster has a window.

本土 Vester Vedsted を出発したら途中無停車で次は Mandø バス停終点で、フェリーのような感覚だ。同バス停前には18世紀の船長の家を保存した博物館 Mandøhuset があるが、これが結構面白い。各ベッドが扉で密閉できる構造になっており、冬の屋内の寒さが偲ばれる。この狭さは鉄道のB寝台車並だ (上)。ドイツでは Bettnische と呼ばれるこれらのベッド室は暗い為か 「æ swot kammer」 (≒ schwarze Kammer (独)=「黒い部屋」 の意味だろう) と呼ぶそうだが、父親のベッド室 (下左右) だけ窓 (但しベッド室と玄関室とを仕切る壁に設けられ、ガラスが直接外気に接しない構造になっている) があり、机・椅子各一脚置ける余裕もある。こちらはA個室寝台というところか。



Mandø Kirke with many votive ships heading the pulpit

スカンジナビアの海洋集落らしく、島唯一の教会 Mandø Kirke の礼拝堂の天井には、海難事故から生還できた船員が神に感謝する奉納船が吊るされていた。これは前号でご紹介した北独 Oland島の教会にもあった (ドイツではVotivschiffという) が、こちらは船の数も多い。船首が皆説教壇の方向を向いているのも特徴的だ。強風に備えて鐘楼が建物から降ろして造られているのはハッリゲン地方の教会と同じだが、更に風下側から入れるようドアが両方にある構造も面白かった。



To my best knowledge, there is no more motor-driven means of wheeled trans-
portation on the shallow sea in Japan. However, these cow-towed coaches that
connect Iriomote and Yufu Islands in Okinawa offer similar attractions for tourists.

トンボロ現象自体は東京近辺では西伊豆の三四郎島等にもみられるが、干潮時に交通機関で結ばれていた実例は日本では筆者の知る限り沖縄にあった1例のみだ。沖縄本島と平安座島の間は干潮時は海底が露出するが、Mandø 同様約4 kmも離れているので徒歩渡海は大人でも1時間を要し、渡海中に潮が満ちてきたりして危険だった。そこで戦後米軍払い下げ車両を用いた 海上トラック で両島を結んだもので、当時は Mandøbusser (当時はこちらもトラック時代) と似た光景が展開されていたものと思われる。しかし平安座島に石油工場を建設する見返りに 「海中道路」 が建設され1999年には往復4車線化されてしまった (土手道、一部橋梁)。今日では西表島と由布島の間の浅瀬を結ぶ 「1牛力」 の水牛車の走行光景が、辛うじて Mandø島のトラクターバスに近い。

準急ユーラシア、次はブエノスアイレスに停車する。



Next stop of the Trans Eurasia Express: Buenos Aires
Expected Arrival: May 2016

(2016年2月 / Feburary 2016)
 
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