Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
63. 観光潜水艇東西対決!アトランティス対もぐりん

- 濡れずに海底散歩を愉しむ ① -
Atlantis and Moglyn – Unique Sightseeing Submarines
今回の取材地: アメリカ 日本


Atlantis XIV and IX (above) in Oahu and Moglyn (below) in Okinawa

本稿で取り上げるのは船底をガラス張りにしたグラスボート(沖縄県石垣島川平湾等)や喫水線下の船倉部分に窓と客室を設けた半潜水船(北海道支笏湖「サファイア」「エメラルド」・神奈川県三崎市「にじいろさかな」・沖縄本島「マリンスター」等)ではなく、船体全体が水中に完全に潜航して海底まで潜る事のできる潜水艇だ。以下、斯界最大手の「アトランティス」と、かつて沖縄で運航されていた「もぐりん」をご紹介する。

 
1 アトランティス
 

脱稿日現在、潜水観光世界最大手は10隻もの潜水艇を運用するAtlantis Submarines International Incorporatedだろう。本社はカナダだが、運用されている地域はハワイ(ワイキキ・マウ・コナ)・グアム・カリブ海セント・マーティン・キュラソー等)と、皆米国領ないし米国の観光客が大勢訪れる海洋リゾートだ。本稿ではワイキキの例をご紹介する。



Atlantis Submarines International Incorporated in Canada has a fleet of 10 submarines
including two in Oahu Island. The shuttle boat “Discovery”, which departs from Hilton
Pier, trails many buoys at its starboard side to prevent collision with the submarine.

ワイキキの場合はヒルトンホテル前の桟橋集合だが、アトランティスの絵を車体に描いた、風通しの良い窓無しバス(左上)がホノルルの主要ホテルを巡回してフィーダーサービスを行っている。中下:ワイキキは高層ビルが林立する大都会なのに水質管理が行き届いており、澄んだ海水を魚が泳ぎ回っている。左下:連絡船ディスカヴァリーDiscovery号は接弦時(右下)に潜水艇を傷付けない様に右舷にソーセージのように繋いだブイを海面に引きずっている。



Climb down to board – The pink arrow (bottom left) indicates the
Royal Hawaiian Hotel or the Pink Palace, the landmark of Waikiki.

上:ワイキキ沖で待つアトランティスに接弦。左下:オアフ島に詳しい方は矢印の先がピンク・パレスことロイヤルハワイアンホテルと聞けば、如何にアトランティスが「表玄関」を活動の舞台にしているかお分かりだろう。同島では9号と14号の二隻体制なので連絡船は順に回っていく。本号でご紹介する観光潜水艇3種類をHPとWikipediaの情報に基づき、極めてざっくりと比較する。

  アトランティス9号(小型艇) アトランティス14号(大型艇) もぐりん(後述)
製造者 Atlantis Submarines International Incorporated(カナダ) 三菱重工業株式会社
運航者 各地に設立された運航会社 日本海中観光株式会社
乗客定員 48 64 40
運航年 1986年~ 1994年~ 1989年~ 2002年
建造費 約300万ドル* 約1000万ドル* 5億6000万円
乗客定員一人当たりの建造費* 約700万円 約1750万円 1400万円
乗員 3
動力 直流電動機
大人運賃 105ドル(脱稿日現在) 115ドル(脱稿日現在) 12800円(1998年)
*HPには載っていないが、コンダクターの口頭の説明に基づく。メモも取らず聞き流していたのでアトランティス9号については500万ドルだったかもしれない。また為替レートは建造時期にかかわらず脱稿日現在の1ドル=112円で統一したので、かなり荒っぽい比較である事をお断りする。

アトランティス14号は世界最大の観光潜水艇の由だ。建造費の差の大きさを考えたら大型艇を1隻造るより小型2隻の方が合理的に思えるが、1隻辺り3名必要なクルーの人件費の節約がポイントなのだろうか。



The world in blue light – The interior of Atlantis IX with 48 bench
seats. Atlantis XIV offers 16 more seats and (simple) seatbacks.

後述のもぐりんと異なり、アトランティスでは乗客の体重測定も座席指定も行わない。中央通路が無く(下)事後の座席変更は物理的に大顰蹙なので、一番に乗り込んで操縦(船の場合は操舵というが、潜水艇の場合はしっくりこない)席直後のベストポジションをさっさと確保するに限る。ガイド係は出入ハッチの真下にキャプテンと背中合わせに座る(右上)。操縦室と客室は一人通れる穴だけ残して透明のアクリル板で仕切られているがドアは無いので、ガイド係のこの定位置は万一のテロに備えて操縦席防衛も想定しているのかもしれない。



Above: Screws of “Discovery” at standstill (left) and in motion (right),
seen from Atlantis. Submerging Atlantis XIV (middle) and IX (bottom).

進行方向左側の席では、これまで乗ってきた連絡船の下腹が窓の上で揺れている。スクリューには巻き込み事故防止の為か、カバーがかかっていた(左上)。右上:出発する連絡船。高速回転するスクリューがこのような螺旋渦を作るのは初めて知ったが、海中でこそ見られる光景だ。連絡船が去ると海中に沈降を開始する。写真中・下は海中に没しつつある14号と9号。水深にかかわらず艇内の気圧は一定に保たれ、不快さは感じない。



Many artificial reefs are scattered on Hawaiian seabed
– YS11 (above), ships (middle and bottom), etc.

もぐりんと異なり、アトランティスは海底に達すると海底の青い世界を這うように進む。沈没船や飛行機の残骸があるが、これらは難破船や事故機ではない。人工魚礁として意図的に沈めたものだという。航空機は日本製のYS11で、元は機体丸ごと沈められたが、ハリケーンの大波で破壊されこのようにバラバラになったという。最後はハワイ沖の海底で魚さんのお家になるとは、飛行機にも色々な運命があるものだ。他に千葉県旭市で設計されアサヒ・ピラミッドと名付けられた三角形の魚礁もあった。



After completion of its broaching maneuver (top left), the white tropical sun-
light comes inside Atlantis through the opened hatch - End of the blue world.

海面に浮上する際は、おもり用に溜め込んでいた大量の海水を圧縮空気で押し出すので泡のカーテンで視界が妨げられる(左上)。泡が消えて海中の景色が再び見えた時には浮上が完了し、すぐ頭上を海面が輝きながら揺れていた。密閉されていたハッチの回転レバーを大金庫のようにぐりーんと高速で回して開けると(がぱっと開けた瞬間、僅かだが海水が落ちてくる)、射し込んでくる南国の太陽が眩しい。



Discovery leaves Atlantis IX/XIV after exchanging the passengers who
just finished the underwater tour and the next ones, with the subs.

浮上時には次の乗客を乗せた連絡船ディスカヴァリーが待っており、2隻の潜水艇の乗客をそれぞれ入れ替えると、連絡船はスクリューで海中に螺旋渦を作りつつ(勿論上からは見えないが)力強く発進し、出発地点に戻って行った。帰路の連絡船では乗客の大半は船内ではなくデッキで潮風に吹かれており、狭い潜水艇内とのコントラストを愉しんでいるようだった。



Since Atlantis IX/XIV are operating right in front of Waikiki
beach, they can easily be observed from the beach.

上・中:人里離れた海域でひっそりと運航されたもぐりんと異なり、オアフ島のアトランティスは大勢の観光客がいるワイキキビーチから良く見える場所で運航され、その存在自体が宣伝効果を伴っている。下:コンテナ船や観光海賊船等、いろいろな船舶が近くを通る。

2 ハワイの他の面白乗物

ハワイの乗物については第32話でもご紹介したが、他にも面白い乗物を2段落分だけ脱線する。遊びの達人の多いアメリカの海洋リゾート地だけに様々なマリンスポーツが楽しめるが、陸上にも面白い乗物が多い。



In addition to the Atlantis, there are many other interesting means of transport
on the island, including the Limo (bottom) which is widely used across the US.

中:ホノルル市内の観光バスも、鯨を模したものや、吹き抜ける風が快適な窓の無い木造車体のものもある。後者はトロリーバスと称しているが、なぜ架線(トロリー)も無いのにトロリーバスと称するかは謎だ。架線から電気を供給されて電気モーターで路上を走るトロリーバスは現在では(黒部ダムの関西電力トロリーバスのような特殊用途車を除き)ほぼ旧共産圏諸国でしか残っていない印象だ。アメリカでは見た事が無いが、木造車の時代にこのような形のトロリーバスが走っていてその名残で今でもこのような懐古趣味的デザインのバスがそう呼ばれているのだろうか。下:ハワイに限らずダックスフントのようにストレッチしたセダンをアメリカではリモlimoといい(リムジンlimousineの縮小形Diminutivか)、多人数で大型タクシーとしても、少人数でゆったり使う事もできる。大統領か大富豪でも乗っていそうなご大層な外観だが、通常のタクシー+α程度の料金で利用できる。



Clear Kayak’s transparent body best fits the clean and shining
shallow water on white seabed like the Sandbar on Oahu Island.

クリアカヤックClear Kayak。これもリモ同様ハワイに限った乗物ではなくどこの水にも浮かべる事ができるが、初めて見かけたのがハワイだったのでついでにご紹介する。船体全てが透明なアクリル製で、上のサンドバーのように水が澄み浅く白砂の海底の場合は飛行感覚に近い浮遊感覚が楽しめる。

3 もぐりん

日本唯一の観光潜水艇もぐりんは沖縄本島恩納沖で運航されていた。基本構造はアトランティスに極めて似ている。もぐりんの運航開始はアトランティス1号就航の僅か3年後なので、ライセンスを受けたのかもしれない。



Submarine “Moglyn” operated in Okinawa from 1989 through 2002

運航形態もアトランティスと似ている。乗客はまず連絡船「うるま」で出発し、一旦沖合に出るが鬱蒼とした湾内に分け入り、そこにもぐりんが支援船「でいご」と並んで停泊していた。が、微妙な違いもあった。乗客の入替時に「でいご」からホースで空気を送り込んでもぐりんの強制換気を行っていた(左中)が、アトランティスではこの作業は無い。もぐりんの上部には水道管のようなものがにょきにょき生えていた(右中)が、これもアトランティスにはなく、つるんとしている。アトランティス1号の頃の30年前は違ったのかもしれないが。



Built by Mitsubishi Heavy Industries almost three decades ago, Moglyn looked old-
fashioned. However, the overall structure looks similar to Atlantis, the first series of which
had been completed three years prior to Moglyn – May be there was a license arrangement.

メンテの間隔から偶々そういう状態だったのかもしれないが、アトランティスが9号も14号もピカピカだったのに対してもぐりんは乗船当時かなりくたびれており、錆の浮いた船体の中に降りていく(左上)のは、道路のマンホールに入っていくような心細さがあった(潜水艦のハッチもマンホール(人穴)といえばマンホールなのだが)。アトランティス9号の操縦室は丸い船体に沿ってパネル類がすっきり作り付けられているのに対して、1隻のみのもぐりんの機器類は既製品や小さな町工場で作ったものをごちゃっと並べたような手作り感があった(右下)。モニターが、まだブラウン管の時代だった(左下)





Moglyn submerging into the water of Okinawa

「でいご」から見た、もぐりんが潜る様子。冒頭にも書いたが、もぐりんは船体のバランスにとても気を遣い、全乗客の体重を測定したうえで座席を指定された。アトランティスと異なり狭いながらも中央通路があったが、自儘な移動は禁止等、ルールが多過ぎて狭い艦内が一層狭苦しく感じた。



Moglyn accommodated 40 pax. The color sample at the window shows how the colors
look different – Near the ocean surface (bottom left) and on the seabed (bottom right).

アトランティスにはないアトラクションもあった。ある程度まで潜水したら「でいご」から魚のエサが撒かれ、それを目指して熱帯魚がわんさと集まり、上から次々と舞い降りてくる餌を取り合ってもぐりんの窓のすぐ外で泳ぎ狂ってくれたのだ。コバンザメがもぐりんに張り付いて横着な移動をしたり(中右)、魚ショーはなかなか楽しかった。反面、海底の移動は少なく基本的に海面⇔海底の垂直移動がメインだったように記憶する。窓辺には色見本が置かれ、海面付近(左下)では全色が識別できたのに海面下30mの海底付近(右下)では「蛍光赤」以外は皆灰色に見えた。



After Moglyn retired in 2002, no successor-submarine for tourists has been built in Japan
up to the date hereof. The author regrets Okinawa without Moglyn – Hopefully, Atlantis
or other entrepreneur with similar pioneer spirit will show interest in Japanese market.

2002年、老朽化したもぐりんの退役と共に日本から観光潜水艇は消滅した。ハワイに負けない観光的魅力に富み、海水は透明で、しかもアクセス容易な沖縄で、この事業が無くなったのは惜しい。アトランティス社のHPによるとこれまでの乗客累計は約1200万人だという。平均客単価100ドル、1ドル100円とかなり乱暴に計算しても売上(年間ではないが)1200億円のビジネスに成長しているのだ。アトランティス社のHPで最も興味深いのは、同社がDennis Hurdという石油掘削機技師が親戚友人から300万ドル搔き集めて設立されたという沿革で、日本海中観光の主要株主が三菱重工と日本航空だったのとは対照的だ。大企業が金を出すなら当然人も出す。人件費一つとっても、ビジネスが小さいうちは小さく暮らし成功すれば大きく収穫するベンチャー式報酬体系の導入は大企業の人事体系では無理で、揺籃期から高額の人件費がずっしりかかり、バランスシートを痛めつけただろう。満席便が多かった由なのにもぐりん2号以下が続かなかった理由が、ベンチャーが育ちにくい企業風土のせいなのか過剰規制なのか分からないが、こういうパイオニア的事業は日本はまだ苦手のようだ。

 

次号は台湾と英国に残る東海道新幹線初代0系車両についてまとめてみる。



Next stops of the Trans Eurasian Express: Hsinchu (TW) and York (GB)
Expected Arrival: February 2018

(2017年11月 / November 2017)
 
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資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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