Trans Eurasien Expreß seit 2002

 
erscheint i.d.R. vierteljährlich und behandelt bedeutende und/oder interessante Eisenbahnen und sonstige Transportmittel in der Welt, mit Vergleichen zwischen Japan und dem Ausland, Geschichts- und Kulturvergleichen - je nach Thema der Ausgabe. Alle Fotos, Ton- und Videoaufnahmen wurden vom Author selbst aufgenommen, soweit keine fremde Quelle ausdrücklich vermerkt ist.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
7.メトロポリタンな移動空間
今回の取材地:
ドイツ






 ドイツのような地方分権国家の交通網は、日仏のような中央集権志向が強い国の首都を中心とする放射状交通網とは異なり、文字通り網の目型となりがちだ。放射状鉄道網を高速化する場合の高速新線の敷設ないし高規格化の優先順位は、日本の新幹線がまず東海道区間で大阪を、また仏TGVがまずSud-Est線でリヨンを、それぞれ首都と速達化したように、大きな地方都市から順に巨大首都との間の路線を高規格化していくのが理に叶うが、網の目型ではこうはいかない。ドイツでは東海道区間のような「ここぞ」という明らかに投資効率の高い区間は比較的少なく、輸送需要が相対的に高い区間から順に高速新線 NBS (Neubaustrecke) の敷設ないし高規格化を実施し、いわばコンクリートのひび割れ状にNBSが点在(線在というべきか)する形にならざるを得ない結果、在来線改良の重要性は放射状交通網の国より高くなる。
   ルール工業地帯Ruhrgebietと北の都ハンブルグ間はその葛藤の好例で、既にハンブルグから南方フルダ方面に伸びるNBSがある以上南西方向に新たなNBSを新設する巨額の予算の正当化が困難であった事は想像に難くない。幸い、大陸欧州の在来線の軌間は広く(NBS同様1435mm)、ハード面では既に十分速い。ドイツの在来線急行用の先代標準機であった名機103の最高営業速度は200キロ、現在の標準型急行機101は220キロ対応である。更にこの区間は平坦地で101の性能を発揮できる直線区間が多い。ならば敢えて「せいぜい」時速300キロのNBSを建設しても時間短縮効果は少なく、速達化より急行の停車駅減や車内のアップグレードによる差別化を試みたのがで対応するのが最も現実的である。こうして生まれたのが急行メトロポリタン(以下MET) である。
 METは1999年8月1日運行開始、ドイツ鉄道株式会社DBAGの100%子会社が運行する特別列車が平日は一日4往復、ハンブルグとルール地方三駅(ケルン・デュッセルドルフ・エッセン)を途中無停車で専用塗色の101が牽引(北行)・推進(南行)する。航空機を競争相手として重視していた事は、当初の全一等車編成や近距離ビジネスクラスの機内食そっくりの軽食が配られる事でも窺える。
 後期はルフトハンザのマイレージが500マイル貰えるサービスまでつき付け、飛行機にしようか迷うビジネスマンの心のツボを押さえているところを見せていた。また、車(周知のようにドイツの高速道路は速度制限の無い区間も多く、無料なうえ、一極集中現象が無い為渋滞も少なく、車は十分超高速移動手段たり得る)も手強い競争相手なので、自家用車の乗捨サービスやレンタカー簡易ピックアップサービス等の総合移動時間短縮を図る配慮が興味深い。
 読書等静かな移動・PCでの仕事・車内で会議もしたい等、利用目的に応じて Silence ・ Office ・ Club の3クラスに分けそれぞれに相応しいサービスを提供し、かつルールを定めている。芸が細かい。区別の主たる基準を騒音の発生頻度に置いているところが、いかにも欧州だ。クラスを問わず、初期の新幹線並の速度で疾走中でも普通の声で話すのさえ憚られる程車内の静粛性は見事だった。これらの3クラスは全て実質1等扱い(従って座席も皆1+2の集団見合型配置)で、デビュー当時は実質1等モノクラスであった。
 この全1等方式はかつての汎欧州急行TEE(Trans Europ Express、もっと遡れば遠距離急行FD (Fern D-Zug))のコンセプトでもあったが結局利用促進の為2等も連結して InterCity や EuroCity に変化していったように、METもまた2001年から実質2等の Traveller クラスを導入した。高品質輸送は会社勘定のビジネス客、経済的輸送は自腹の旅行者向け、というこの用語法も、近時の航空機と共通のコンセプトである。
 近年意匠面の向上が目覚しいJR九州との間に面白い類似性を認めるので一言付言させて戴きたいする。1等の革張シートは色こそ違え「白いソニックかもめ」こと885系のグリーン車とそっくりだ(ちなみに同形式のキャノピー状先頭車は独ICE3と瓜二つ、意識しなかったとは言わせない)。また制御客車の運転室ユニット自体はDB標準のものだが、銀一色のMET塗色にすると映画ターミネイターの合金製頭部を連想させる辺りは同じくJR九州の傑作787系に似ている。逆にデザインコンセプトで両者が大きく異なるのは、JR九州がハイテクと伝統美との融合を目指しているのに対してMETが(ドイツ人の考える)英米志向な点である。
 九州新幹線800系は、種車が700系と必ずしも日本の最高速鉄道ではなかったにもかかわらず、縄暖簾・簾状の桜材ブラインド・古代漆色のアクセント等、日本の美を随所に巧みに表現している。これに対してMETでは、①大陸欧州の長距離列車の必須アイテムの筈の区分室車 Abteilwagen を全廃し、英米型開放室車 Großraumwagen で統一、②現代ドイツ人の好むシンプルでモダン(schlicht und modern)よりも英米人の好むクラシックさに軸足を置いている、③独優等客車では新幹線ICE以外で初めて英米優等列車式の横長型を中心とする小型窓を採用、④英語表記の多用(そういえば運行会社名(Metropolitan Express Train有限会社)も英語である)、等随所に英米のにおいを感じる。英米的とはいってもマホガニーを使った古典的なクラシックさでは無く、黒皮・木目や工場を連想させる金属の多用、等の手法で、NYのクライスラービル的なネオクラシックさを醸し出している。
 ただ、この「英米的におい」の真意は、実は英語が幅を利かせるライバル・航空機のイメージを演出する小道具なのかも知れない。METは銀色をベースカラーに灰色と黄色のアクセントが入るが、薄灰色と黄色はルフトハンザのシンボルカラーでもあり、多くのドイツ人ビジネスマンにとって飛行機を連想させる配色でもあるからだ。そういえば、かつて流麗なる珍車 ET403等をルフトハンザが借り上げて Lufthansa Airport Express として運行した時も薄灰色と黄色に塗り変えられていた。ゆるくカーブしたハンブルグ中央駅に大蛇のように横たわる銀色のぬめっとした巨体を見ながら、ふとそんな事を考えた。
 そしてMETが最も意識した航空機によってMETは5年の歴史を終える事となった。ビジネスマンには3時間半の移動時間は長過ぎ、また Traveller クラスで取り込もうとした自費旅客も格安航空会社との価格競争に晒されて失敗し、末期は空気を運んでいるに近い状況だった。METは2004年12月で運行を終えたが、細かな旅客ニーズに Silence 席で応えようとしたアイデアは、遥か東のJR西日本ひかりレールスターで活きている。 偶然だが配色も似ている。
 
     
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